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世界最高強度の「銅合金」 日本ガイシが量産へ

世界最高強度の「銅合金」 日本ガイシが量産へ

量産を始める「ジルコニウム銅ワイヤ」

 日本ガイシは銅合金として世界最高強度を持つ銅合金「ジルコニウム銅ワイヤ」を今秋から量産する。数億円を投じ知多事業所(愛知県半田市)に量産設備を導入。自動車用やロボット用などに提案する。併せて三菱電機系企業から買い取った「銅ニッケルスズ」合金も今秋から一貫生産を始める。金属事業の売上高を、現在の約200億円から20年3月期に50%増の300億円に引き上げる目標だ。

 ジルコニウム銅ワイヤは、同社が東北大学と共同で13年に開発した。銅の強度を高めるジルコニウムの含有率を上げ、線状に加工することで最高強度2234メガパスカルを実現。強度が高く、ワイヤを細くできるため、モーターやコイルの小型化に寄与するとみている。

 同ワイヤを連続生産する技術にめどをつけた。既に直径0・02ミリメートルの線材をサンプル出荷しており、今後は量産用の鋳造設備を4月に導入。10月以降の生産開始を目指す。

 一方、三菱電機メテックス(相模原市中央区)の清算に伴い、設備を買い取った銅ニッケルスズ合金も、秋から自社で一貫生産を始める。既にメテックスから十数人の技術者を受け入れ、鋳造設備の移設を進めている。ロール状の「展伸材」として出荷し、10月以降の量産化を目指す。

 日本ガイシの金属事業は約200億円の売上高のほとんどを「ベリリウム銅」と呼ぶ合金が占める。スマートフォンのコネクターや自動車のモーターなどに使われており、今後は2種類の合金を加えることでさらなる事業拡大を目指す。

2013年に開発していた


 日本ガイシは東北大学金属材料研究所の後藤孝教授と共同で世界最高の強度を持つ銅合金を開発した。銅とジルコニウムの混合物を線状に加工し、繊維構造にしたことで最高強度2234メガパスカル(メガは100万)を実現。直径0・02ミリメートルの線材を試作し、一部顧客にサンプル出荷を始めた。2015年の事業化を目指す。最高強度の銅合金の実現によりモーターやケーブルなど電子部品の一層の小型化への寄与が期待される。

 銅は銀に次いで導電性能が高い。半面、柔らかいことから強度が求められる場合には他の金属と合金にするのが一般的。ただ、強度と導電性能は反比例の傾向があり、両立が難しかった。

 開発した「ジルコニウム銅ワイヤー」は、求められる導電性能に応じ0・7―7%(重量ベース)の割合で銅にジルコニウムを加えた。高温で溶かした合金を1秒間にマイナス1000度Cのスピードで急速冷却。従来は銅中に0・1%程度しか加えられなかったジルコニウムを最大7%混合させることに成功した。

 さらに、伸線機を使って線状に加工することで銅とジルコニウム銅化合物が交互に重なる繊維構造を実現。導電性能を保ちつつ強度を高めた。

 ジルコニウムの割合を調整して他の合金と同じ導電率に設定した場合、真ちゅう(銅と亜鉛の合金)の3・5倍、ベリリウム銅合金の1・4倍程度の強度がある。同社は純銅に近い導電性能からピアノ線並みの高強度まで対応できるという。

 コイルやモーター巻き線に新合金を用いた極細線を密に巻くことにより、電子部品の小型化につながる。同社は同軸ケーブルや車載モーターといった分野で用途を想定している。

 従来、最も高強度だった銅合金は78年に発表されたニオビウム銅合金(最高強度2230メガパスカル)だが、研究論文にとどまっていた。事業化された中では銅銀合金(1400メガパスカル程度)が最高レベルで、同社によれば2000メガパスカルを超える銅合金は例がないという。
日刊工業新聞2016年2月23日付、2013年9月27日付記事
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
理論上わかっていても、実際に作るのは難しいという好例だと思います。同社は電子部品(とくにコイル)の小型化などを狙っています。今後は量産コストをいかに下げられるかが、普及のカギとなりそうです。

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