ニュースイッチ

車載電池に6000億円集中投資、パナソニックHDの戦略は奏功するか

車載電池に6000億円集中投資、パナソニックHDの戦略は奏功するか

米カンザス州に建設中の車載電池工場(完成イメージ)

パナソニックホールディングス(HD)が車載電池領域に集中投資する。2022―24年度の3年間で複数の事業へ計6000億円を分散投資する方針を示していたが、このほど、ほぼ全額を車載電池領域に振ると決めた。米カンザス州の車載電池工場の整備費用が5000億―6000億円に上る。車載電池は世界的に需要拡大が見込めるが、同社は北米に照準を合わせる。的を絞った投資戦略が奏功するか注目される。(編集委員・安藤光恵)

22年4月時点では車載電池のほか空質空調、供給網管理(SCM)ソフトウエアといった「成長領域」に計4000億円、水素エネルギーやサイバーフィジカルシステム(CPS)などの「技術基盤」に計2000億円を投じる計画を立てていた。今回一転して、ピンポイントの投資に切り替えた。

楠見雄規社長は「カンザス工場への投資は事業会社のパナソニックエナジーだけで担うのが難しかった」と振り返る。「空質空調やSCMは基本的に事業会社の収益で何とかなるのではないか」と対応の差を説明した。

必要に迫られただけでなく、期待も大きい。楠見社長は「今後、売り上げが一番伸びるのは間違いなく車載電池。利益率10%を目指したい。稼ぎ頭になるはず」と力を込める。稼働中の米ネバダ州の工場は、電気自動車(EV)大手の米テスラへの供給拠点。カンザス工場は、それ以外に開拓した顧客向けとなる。22年12月には米ルシッドと、23年4月にはノルウェーのヘキサゴンプルスと契約を結んだ。さらに他の企業からの引き合いも来ているという。

車載電池市場についてパナHDの楠見社長は「多くの企業が参入し、レッドオーシャン化するリスクはある」と認める。ただ「特定の顧客と需要をすり合わせながらやっていく」形のため、受注は確保しやすいとみる。エネルギー密度の進化や安全性、レアメタルレスなどの技術開発を進めていることに加え、側面を冷却しやすい円筒型の形状も車載用に選ばれる理由になると考えており、競争優位性に自信を示す。

グローバルの生産能力では30年度までに22年度比約4倍の200ギガワット時(ギガは10億)の達成を目指す。カンザス工場で現在の主力モデル「2170」の生産を拡大。また、より大型の「4680」は和歌山工場(和歌山県紀の川市)で安定生産を確立した後に北米での大規模展開を構想する。楠見社長は4680について「理論的に円筒型の最適な形。中身の組成などを変えながら進化していく」とし、将来の主力製品と位置付ける。

4680の生産拠点は今後選定する。楠見社長は「工場誘致の声かけはいろいろある。物流や人員確保、支援制度など総合的に判断する」方針だ。集中投資が収益へ結びつくには、需要と供給のバランスが不可欠。供給先の確保と並行して最適なタイミングで拠点整備が求められる。


【関連記事】 パナソニックグループが頼りにする異能の変革集団
【関連記事】 EV普及へコストを下げられない企業は市場追放!電池材料メーカー“最後の戦い”
日刊工業新聞2023年5月25日

編集部のおすすめ