財務悪化で正念場の楽天、公募増資・利用者獲得で難局乗り切れるか
携帯通信事業の基地局建設で財務悪化が続く楽天グループが正念場を迎えている。同社は16日、公募増資と三木谷浩史会長兼社長の資産管理会社などへの第三者割当増資で最大約3300億円を調達すると発表した。KDDIから回線を借りる「ローミング」利用でデータ利用量の上限をなくす新プランの提供も、6月に始める。財務基盤が脆弱では強みの「経済圏」も発揮できない。公募増資などに伴う財務改善と利用者獲得による携帯通信事業の黒字化。この両輪で難局を乗り切れるか。
楽天グループは2022年12月期までの過去4期連続で当期赤字を計上。3月末時点の社債および借入金は、1兆8214億円に膨らんでいる。加えて、携帯通信事業の利用者獲得でも伸び悩む。総務省が公表している携帯電話の契約数における事業者別シェアにおいて、楽天モバイルは22年12月期に前期比0・1ポイント減の2・2%だった。
こうした状況を踏まえて、楽天グループがまず取り組むのは財務改善。同社は保有していた西友ホールディングスの株式を売却するほか、KDDIの回線を借りるローミングの利用地域を拡大して設備投資を抑える方針。これに加えて、今回の公募増資と第三者割当増資を実施する。増資で調達した資金を社債の返済や基地局の設備投資などに充てる見通しだ。一方で、赤字を垂れ流す携帯通信事業の黒字化も必要。黒字転換に向けた施策の一つは、楽天モバイルが6月に提供を始める新プランだ。これまで月間データ利用量5ギガバイト(ギガは10億)だったKDDI回線の制限を廃止し、新規顧客の獲得を狙う。
楽天グループは、今の難局さえ乗り切れば、大きく飛躍できる可能性を秘める。「楽天経済圏」では電子商取引(EC)やクレジットカード、銀行など多様なサービスがポイントで連携。国内の月間アクティブユーザー数は4000万人を超える。
足元の財務状況改善と携帯通信事業の黒字化を実現し、経済圏の成長につなげられるか、踏ん張り時だ。
日刊工業新聞 2023年05月17日