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国産ドローンに上昇気流か、中国製の席巻も砦の「公共分野」で目立つ活躍

国産ドローンに上昇気流か、中国製の席巻も砦の「公共分野」で目立つ活躍

北海道上士幌町でエアロネクストが行っているドローンデリバリーサービス

国土交通省の有人地帯上空における飛行ロボット(ドローン)の規制緩和を機に、公共分野で国産ドローンの活躍が目立っている。エアロネクスト(東京都渋谷区)は出前館などと組んで、茨城県境町でドローンによる定常的なデリバリーサービスを開始した。セブントゥーファイブ(東京都千代田区)は「無人航空機を活用した密漁防止及び水産資源保護実証実験」の一環で、青森県むつ市でドローン夜間飛行を実施した。公共分野では機体性能だけでなく、情報漏えいを防ぐセキュリティー性も求められる。中国製ドローンが市場を席巻する中、公共分野は国産ドローンメーカーにとって砦の市場になりそうだ。

エアロネクストが定常的な実サービスを始めた自治体は、山梨県小菅村や北海道上士幌町などに続き、5番目だ。実証実験ではなく実サービスで行うことによって、ドローンで荷物を運べるなど技術的な課題と並んで事業がビジネスとして続けられるか、採算性や使い勝手が試される。境町のデリバリーサービスは住民が出前館アプリで食品や飲料などを注文し、陸上配送と組み合わせて住民の生活不便の解決を目指す。ドローン配送料金(消費税込み)は1回当たり500円。利用回数を増やすには、住民側から見た利便性の向上と、ドローン運用コスト低減がカギになる。

セブントゥーファイブがむつ市で行った夜間飛行は、夜間を狙った密漁対策を想定。暗闇の中での探索となるため、ドローンに温度を感知して映像や画像に写す赤外線カメラを搭載し、可視光カメラで確認できない不審船を発見する。パトロール区域内の飛行ルートは事前に設定した上で自動航行するため、ドローンの位置情報も把握しやすい。実験には同社が開発したオリジナルの機体「AIR HOPE AX―2601」を使用。照明を完全に消灯した模擬の不審船も赤外線カメラで確認できたという。

エアロセンス(東京都文京区)は河川や砂浜、ダムなどの広域点検や測量分野の市場開拓に注力する。同社のオリジナル機体「エアロボウイング」は垂直離着陸ができる固定翼型で、長い時間を飛べるため広域点検に向く。豪雨や地震で現場までの道路が寸断されていたり、人が立ち入るには危険だったりする場合でも、ドローンなら安全に点検できる。

ACSLは国土交通省から有人地帯の目視外飛行(レベル4飛行)に対応したドローンの、第一種型式認証を取得した。型式認証取得は国内メーカーで初めてで、官公庁分野を中心に受注獲得攻勢をかける。

政府調達など官公庁系ドローンには、安全保障セキュリティーが何より重要視される。ドローンは対象物の正確な位置情報や画像情報をリアルタイムに収集、解析し、利用者に届けられる。悪意の第三者がドローンを故意に乗っ取り、クラウドを経由してデータを抜き取れば原子炉や空港、基地の情報などを敵国に伝えたり、能力を事前調査したりすることも可能になる。防衛省は中国製ドローンを念頭に、自衛隊基地周辺でのドローン飛行を禁じている。

固定翼型で長時間・長距離を飛べるエアロセンスの「エアロボウイング」
ACSLが日本郵便と共同で奥多摩で行った実証実験。レベル4の認証機体で荷物を配達する

官公庁や電力、通信などのインフラ系企業ではこうした安全保障セキュリティー意識が広がっているが、空撮や農業などの民生分野では、ユーザーの安全意識はあまり浸透していないようだ。価格面や性能面で中国製ドローンを使っていたユーザーは更新期になっても、変わらず中国製を使い続ける例が多い。その理由をエアロセンスの佐部浩太郎社長は「利用者が中国製ドローンの使い方に慣れてしまっている面が大きい」と、指摘する。国産メーカーが自社商品を売り込むにはデータの安全保障セキュリティー以外に、故障対応やカスタマイズなどサポート体制を充実させる必要がある。

ドローン以外に、カメラやセンサー、アクチュエーター機器なども国産化が必要だ。国産と銘打っていても、主要部品が中国製や韓国製で国内工場で組み立てただけであってはセキュリティーもおぼつかない。関連技術の底上げも急務だ。

過疎地・離島などで先行

さまざまな課題はあるものの、官公庁の需要自体は基本的には安泰と言える。高齢化や人口減少、過疎化や買い物難民の悩みは地方自治体の多くが抱えており、難題解決策としてドローンは有効な手段となり得る。山奥の鉄塔やダム点検は、車や徒歩だと現場に着くのに半日か、それ以上かかる場合も珍しくない。ドローンならその点、すぐに行くことができる。交通渋滞や、災害で道路が封鎖されている事態でもドローンなら影響は無縁だ。

東光鉄工は農業向けにドローン拡販を計画する

過疎地や離島をはじめとしたドローン配送と老朽インフラ点検は、この意味で市場が先行すると見られる。都市部ではドローンが住宅地上空を飛ぶことに対して、市民の反対や不安が強い。騒音やプライバシー侵害の問題と並び、荷物落下など安全性の問題もある。人口が少ない過疎地や山林なら、こうした問題は少ない。

50キログラムの荷物を搭載して50キロメートルの距離を飛べる“空飛ぶ軽トラ”開発を目指すプロドローン(名古屋市天白区)は開発の加速に向け、自動車の制御技術で強みを持つジェイテクトを引受先とする第三者割当増資を行った。大型ドローンに強い東光鉄工(秋田県大館市)は、資金力の小さい農業者向けに、低価格の新ドローンを開発した。こうした国産メーカーの動きが加速することで、ドローン技術の底上げと普及加速が期待される。


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日刊工業新聞 2023年05月08日

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