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エネルギー大競争時代、「やまがた新電力」が示す経済性以外の可能性

自治体、利益をため込まず地域に還元
 山形県が県内企業と立ち上げた新電力(PPS)「やまがた新電力」が4月、電力販売を始める。県内の太陽光、風力、バイオマスの各発電所から電力を買い取り、県立高校など県施設に供給する。いずれ県内企業にも販売先を広げる。

 自治体が設立した「地域PPS」はいくつかあるが、都道府県による電力会社は全国初だ。県エネルギー政策推進課の渡邊丈洋課長は「再生可能エネルギー比率は70%。他のPPSよりも高い」と特徴を語る。

 2011年の東日本大震災がPPS設立のきっかけだった。山形県に送電していた太平洋側の発電所が被災し、日本海側の県全域が停電に見舞われた。県内に電源を確保し、非常時の県民生活を守ろうと再生エネの導入目標100万キロワットを掲げた。PPSは再生エネへの投資を促す仕掛けだ。

売電先を変える再生エネ発電所が続々


 既存電力会社と買い取り価格が同じでも、やまがた新電力に売電先を変える再生エネ発電所が続々と出てきた。作った電力が地域で使われる”地産地消“が明確で、県内の発電事業者には「経済性以外の付加価値」(渡邊課長)となる。

 自治体の電力事業は必ずしも利益を出す必要がない。「利益をため込まず、電力料金を安くしたり、買い取り価格を高くしたりして地域に還元する」(同)方針だ。電力コストの削減は地域産業の振興に役立つ。

 秋田県鹿角市も地域PPSの設立を検討している。市内の再生エネ発電所から電力を購入し、公共施設に売る。公共施設の電力料金削減分と、地域PPSの税収で住民サービスの予算を生み出す。

 鹿角市の計画は、三菱電機とPPS2位のF―Power(Fパワー、東京都港区)が支援する。Fパワーは地域側に不足する電力ビジネスのノウハウを提供する。

地域PPSは電力ビジネスのプロ


 宇佐美慶人常務執行役員は「PPSの実務をやっている立場から踏み込んで助言できる」と話す。地域側は電力ビジネスのプロを求めており、既存PPSの出番だ。

 洸陽電機は神戸市と地域PPSの設立を検討する。同社は12年に電力小売りへ参入した。乾正博社長は「経験がなく悩んでいる地域が多い。小売りも電源開発もできる我々の機能を使ってもらえる」と見通す。

 4月から家庭への電力販売を計画する福岡県みやま市の地域PPSには、構想段階からエプコが協力してきた。自治体と組むのは電力ベンチャーが多い。電力が触媒となり、地域と企業が共存共栄するエコシステムが生まれつつある。
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
毎月の電気代に上乗せで請求される賦課金。ざっくりと言えば、割高な再生可能エネルギーの電力を電力会社が買い続けるために必要なお金で、国民が分担して負担しています。その賦課金の負担が増していると批判の声があがっています。地域PPSが登場したおかげで、近隣の再生エネ発電所の電力が地元で使われ、公共施設の電気代の節約に使われたらどうでしょうか。節約で浮いたお金が住民サービスに回るなら、賦課金の使い道(的なもの)がはっきりすると思います。

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