「このままではただの箱になる」…「AI研究」大型事業始動へ、財源めぐり水面下で攻防
日本の人工知能(AI)研究の大型プロジェクトが立ち上がろうとしている。自由民主党のプロジェクトチームは、米オープンAIの対話AI「チャットGPT」のような巨大な基盤モデルの研究に対する継続投資を求めた。この提言を受けて水面下では今夏の概算要求に向けた準備が始まっている。ただ霞が関では財源をめぐって担当官が右往左往している。必要とする予算が大きいため抵抗は小さくない。楽観できない状況にある。(小寺貴之)
「このままでは電気代さえ払えない。スーパーコンピューターを並べても動かせず、ただの箱になる」―。基盤モデルを動かす計算資源への投資について文部科学省幹部はこうこぼす。経常的経費に使える予算が減っているためだ。補正予算で措置されたとしても、支え続け、使い続けることは難しい。同幹部は「新事業を立ち上げるばかりでスクラップしてこなかったからいまの状況がある」と説明する。霞が関での予算調整では大型プロジェクトの組成には限界があり、永田町からの政策提言につながった。
この提言策定は迅速だった。初回会合は2月3日。3月30日に提言をまとめ、4月10日には岸田文雄首相とサム・アルトマン米オープンAI最高経営責任者(CEO)との会談が実現した。アルトマンCEOからは、基盤モデル「GPT―4」の画像解析などの先行機能の提供や機微データの国内保全のため仕組み検討、日本の若手研究者や学生への研修・教育提供などの七つの提案を引き出した。
米オープンAIとの連携は政策提言に盛り込まれていた内容だ。巨大な基盤モデルを日本単独で開発するのは容易ではないため、パートナーシップを組んで応用研究と用途開発を進めるべきだと提言していた。これが前倒しで実現する。
次は巨大な基盤モデルの開発能力構築と継続投資になる。提言では諸外国に比して国際的な競争優位を図る規模の取り組みを求めた。具体例として米国政府の26億ドル(約3400億円)と英国政府の9億ポンド(約1450億円)のAI投資が挙げられた。仮に英国と同等以上の規模だと10年間で約1500億円の大型投資になる。
そして日本は信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)を提唱してきた。英国が加盟する環太平洋連携協定(TPP)などの枠組みで計算資源やデータを整えられれば、投資の分散化やデータの積み増しも可能になる。同時にDFFTを広げることで、国際的なルール形成に貢献できる。自民党プロジェクトチームの座長を務めた平将明衆議院議員は「基盤モデルは安全保障と経済安全保障の両面で重要な技術。その構築は日本以外の国々も直面する課題」と説明する。
基盤モデルへの投資や人材育成、国際ルール形成は並行して進む。研究開発と産業振興、科学技術外交の知見を総動員した政策になるか注目される。