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JFEエンジ・横河電機…プラント制御はAIで差別化

JFEエンジ・横河電機…プラント制御はAIで差別化

JFEエンジのグローバルリモートセンター

エンジニアリング系企業がプラントを人工知能(AI)で高度に制御する取り組みを加速している。熟練技能者の退職による運転員の減少やノウハウ伝承が課題になる中、熟練者不在をAIで代替する自動運転や自律制御が実現している。AI制御を実装したサービスとして提供が始まっており、競合との差別化要素になりつつある。(戸村智幸)

JR鶴見線の弁天橋駅を出て目の前にあるJFEエンジニアリング(東京都千代田区)の横浜本社(横浜市鶴見区)。敷地内を数分歩くと、プラントの遠隔操業・監視拠点「グローバルリモートセンター(GRC)」がある。

同社は自治体のゴミ処理場の設計・調達・建設(EPC)が主力事業だ。民間委託の流れが強まり、O&M(運用・保守)の受託も増えている。2014年にGRCの前身のリモートサービスセンターを設立し、顧客のゴミ処理場の遠隔監視や操業データの蓄積を始めた。18年にはGRCを開設し、太陽光発電や生物由来資源(バイオマス)発電などの遠隔監視を集約した。

GRCでは24時間365日、現場経験のあるオペレーターが顧客のゴミ処理場などを遠隔監視している。国内外88施設が監視対象で、うち8施設は操業支援まで提供している。20年には、AIを活用したゴミ焼却炉の完全自動運転システム「ブレイング」を始めた。

焼却炉にはさまざまなゴミが投入されるため、炉の状態を安定化するにはベテランのノウハウが求められる。状態が悪化しないために介入作業が必要で、1日数十回にもなるという。燃焼状態が改善すれば、有害物質の発生抑制や発電量増加が見込める。ゴミ処理場では焼却だけでなく発電もしている。

ブレイングは過去に蓄積した操業データを生かし、映像により炉内の温度やゴミの供給量、空気量などをAIに学習させた。小山建樹常務執行役員DX本部長は「ベテランの操業を解析・再現している」と特徴を挙げる。

導入実績は増えており、11施設の焼却炉でAIで自動運転している。AIが異常な燃焼をさせないように制御していることも安心感になり、自治体は導入に積極的という。23年度中に14施設に増える予定だ。顧客の中には発電量が4%増えたケースもある。その分を売電に回せるため、収入を増やせる点も評価されている。

現在は自社がEPCとO&Mを手がける施設向けに提供しているが、他社が手がける施設にも適用できるという。他社がO&Mを担う施設に組み込む難しさはあるが、実現すれば事業規模を拡大できる。GRCも同様に、外販を目指している。

プラントの操業をつかさどる制御システム大手も、競争力強化のためにAIを研究してきた。横河電機は奈良先端科学技術大学院大学と共同で、プラントをAIで自律制御する技術「FKDPP」を共同開発した。実際のプラントを35日間連続で自律制御する世界初の実績を築いた上で、自社の制御装置に後付けで導入できるサービスを始めた。

22年1―2月、ENEOSマテリアル(東京都港区、当時はJSR)の三重県四日市市のブタジエン精製プラントを35日間連続AIで制御し、無事に操業した。蒸留塔で沸点が近い2種類のブタジエンを分離するため、バルブを開けて排熱で蒸留塔を加熱する作業などをAIが担った。ベテラン運転員の経験が必要になるため、自動化できなかった領域だ。雨や雪、気温など天候の変化に対応しつつ、相反する要素の品質と省エネルギーを両立できた。

具体的なプロセスは以下の流れだ。対象のプラントをバーチャルに再現するイメージで、AI制御モデルを生成する。過去の運転データを与え、動作を確認する。さらにリアルタイムの操業データを与え、ベテラン運転員が動き方を確認し、安全性を確保した上で、実際にAIで自律制御した。失敗してもプラントの操業を止めないように、主力製品の統合生産制御システム(DCS)に統合し、プラント操業に組み込んだ。DCSの安全機能が働くため、異常が発生しても対処できる。

奈良寿社長は「安全な操業、生産性向上、品質、環境負荷の低減という相反する要素を両立できる革新的な技術だ」と胸を張る。

横河電はENEOSマテリアルのプラントの自律制御に成功した
横河電は自律制御を小型装置に後付け導入できるサービスを始めた

35日間連続だけでなく、定期修理を挟んで計約1年間自律制御に成功し、ENEOSマテリアルは正式採用した。また、同社での実証をベースに商用化し、自社の制御システムのオプションで後付けで導入できるサービスを2月に始めた。DCSではなく、エッジコントローラー「e―RT3」という小型装置に後付けする。

プラント全体に一気に導入しようとすると、DCSに組み込むことになる。そのためにはプラントの次の定期修理まで待つ必要があり、何年もかかる場合がある。e―RT3は制御装置の一種で、顧客が制御プログラムを組み込める。プラントや工場の部分的な制御に活用されており、AI自律制御を希望する範囲のみで導入したい需要を想定する。

横河電は経営の意思をプラント操業に反映させることに、AIが貢献することを志向する。経営とプラントがシステムでつながり、クラウド上の自律制御AIに経営目標を連携させる。経営目標に合わせて、生産性重視、二酸化炭素(CO2)排出削減重視のようにモードを切り替えて操業できるようにするイメージだ。

横河電も、全てのプラントをAI自律制御が担うようになるとは考えていない。PIDなど従来の人手による制御が残る一方で、ベテラン運転員退職への対応や、経営視点の反映など高付加価値の操業が求められるケースにAI自律制御を提供する方針だ。

日刊工業新聞 2023年05月03日

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