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三井物産が創薬ベンチャーに提供する「スパコン」の実力

三井物産が創薬ベンチャーに提供する「スパコン」の実力

三井物産はスーパーコンピューターを設置し、創薬ベンチャー企業に研究開発機会を提供する(イメージ)

三井物産は来春にも国内創薬ベンチャー向けにスーパーコンピューターの提供サービスを始める。米NVIDIA(エヌビディア)製スパコンを国内に設置し、ベンチャーが研究開発に利用できるようにする。資金や設備の制約でイノベーションの創出機会を喪失しているベンチャーに対し、高速シミュレーションで新薬の開発期間を短縮できる環境を整える。

三井物産は10月に製薬大手向けに最先端スパコンの提供サービスを開始するのに続き、2024年4―8月をめどにベンチャー向けも開始。エヌビディア製のスパコンを三井物産が購入するが、資金力を欠くベンチャーにはグレードを落とした機種を用意し、利用料を抑えて提供する。

スパコン運用は三井物産の100%子会社で創薬支援を手がけるゼウレカ(東京都千代田区)が担う。当面は製薬大手・中堅10社への提供を目指し、創薬ベンチャーや画像診断機器メーカーにも活用を促す。米調査会社アイキューヴィアによれば、世界の創薬開発品目数の8割を売上高5億ドル未満のベンチャーが手がけている。

厚生労働省によると一つの新薬の開発期間は治験を含め9―17年程度、開発成功率は約2万6000分の1、研究開発費は数百億円から数千億円とされる。医薬品の候補化合物の絞り込みなどを早められるかがカギとなる。

欧米は新型コロナウイルス対応で通常10年以上要するワクチン開発を1年未満で実現するなど、スパコンを活用した短期間の創薬で先行する。日本ではクラウド業者がスパコンを提供するものの空き容量が限られるほか、大学が一部開放するスパコンは研究内容の公表義務付けで利用の障壁が高いという。

三井物産は、「Tokyo―1(トウキョウ・ワン)」プロジェクトと称し、創薬企業の開発環境の整備を後押ししている。企業間の情報コミュニティーも形成し、担当者同士でスパコンの活用ノウハウを共有できる場をつくるなど、創薬業界の発展をサポートする。

日刊工業新聞 2023年05月01日

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