材料メーカーの研究開発をDXで支援、海外開拓なるか
学術界で模索が続くデジタル変革(DX)だが、民間ではビジネスが始まっている。材料メーカーなどの研究開発を支援して開発期間を短縮している。大きな市場を目指し、海外展開の準備を進めている。
「2023年は北米に拠点を置き、ユーザーサポートの時差の問題を解決したい」―。プリファード・コンピュテーショナル・ケミストリー(PFCC、東京都千代田区)の木元正孝取締役技術営業部長は海外展開に意欲を見せる。PFCCは人工知能(AI)ベンチャーのプリファード・ネットワークス(同千代田区)とENEOSの合弁会社で、深層学習を駆使した汎用原子レベルシミュレーターを展開する。同シミュレーターの日本における市場は約70億円。北米は約150億円、欧州は約120億円と推計する。
研究開発は秘匿性が高く、DX事業者は顧客が扱っているデータや分析の勘所が事前にわからない。そのためコンサルタントが手取り足取り支援する伴走型になりがちだ。採算性を考えると手離れよくユーザーを育てたいところだ。
PFCCはSaaS(サービスとしてのソフトウエア)としてサービスを設計し、使い勝手を高めてきた。サンプルコードやチュートリアルをそろえてユーザーの自立を助けてきた。これが北米拠点の負荷を抑えることにもつながる。
さらに木元取締役は「米オープンAIのチャットGPTなど、コード生成AIの進歩が目覚ましい」とし、「将来は材料研究者がコードを書かなくても計算結果が得られることも夢ではない」と期待する。
富士通は原子レベルシミュレーターに大規模計算や解釈を加えたDXを支援する。アイスランドのアトモニアとアンモニア合成触媒を探索し、従来技術に比べて100倍以上触媒探索を高速化した。
白幡晃一プロジェクトマネージャーは「量子化学計算の負荷を削減し、収束を早めた。スーパーコンピューター『富岳』での大規模並列計算に適した改良を積み重ねた」と説明する。シミュレーションデータを学習させてアンモニア合成に特化したAIモデルを構築し、さらにデータを大量生成する。
最終的に1万以上のデータを網羅的に因果探索して、触媒性能に利く因子を特定した。樋口博之プロジェクトマネージャーは「因果関係で大量の計算結果を解釈できるようになる。材料研究者が納得して開発を進められる」と説明する。
SaaS型と伴走コンサル型の両方で海外展開が始まっている。研究開発のDX市場は海外の方が大きい。日本で育てたひな型をうまく展開できるか注目される。