材料研究でユニコーン創出、カギ握るDX手法
マテリアル分野では研究DXの手法開発と研究インフラ整備、データ人材育成の政策が相乗効果を発揮するように設計された。これは文部科学省の施策だ。この資産を活用し他省庁の事業に貢献することが求められる。
「所管省庁が違ってもワンチームになる。別事業であっても人が行き来して連携する」―。科学技術振興機構の橋本和仁理事長は、文科省の革新的GX技術創出事業(GteX)と経済産業省のグリーンイノベーション(GI)基金事業の連携についてこう説明する。GteXの予算は496億円で、水素技術と蓄電池、バイオ生産技術を開発する。2兆円超のGI基金と連携し、基礎研究の成果提供や科学面からの支援が求められている。
材料研究者の活躍が求められる事業は多々ある。文科省の先端国際共同研究推進事業や内閣府の経済安全保障重要技術育成プログラムなど、この1年間で大型事業が次々と組成された。研究者は事業を行き来しながら、DX手法や知見を提供することになる。
内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)もその一つだ。SIPの材料関連テーマにはユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)の育成プロジェクトが選ばれた。材料研究は実用化されるまで10年以上かかることが多いが、5年間の研究開発でユニコーン予備軍を複数社立ち上げる。
カギとなるのがDX手法だ。ベンチャーの事業に合わせて研究データと人工知能(AI)モデルなどを組み合わせたDXパッケージを用意。ベンチャーが起業と同時に最短コースで成長できるようにSIPで整える。
起業1年以内にSIPからの研究費と同額以上の資金を調達することがベンチャーの目標になる。調達額は10億円以上を想定しており、SIP予算と合わせると20億円の調達に相当する。
さらにSIP期間の完了を待たずに起業の前倒しを促す仕組みが用意された。橋渡しプログラムとして社会実装やベンチャーの事業創出などに100億円が当てられた。SIPは14テーマで280億円だ。須藤亮プログラム統括は「初めから全額を配分したりしない。進んでいるテーマに厚く配分しインセンティブとする」という。
このインセンティブ設計は多省庁に広がると見込まれる。内閣府で試行し成功した施策は、省庁横断的な適用が試みられるためだ。例えば文科省の研究予算と経産省のベンチャー予算はインセンティブとして連携させやすい。研究者の視野を広げ、優れた研究手法を行き渡らせる仕掛けになると期待される。