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新たながん治療法に道…東京医科大などが血管新生機構を解明

新たながん治療法に道…東京医科大などが血管新生機構を解明

AT3 は血管形成関連遺伝子のスーパーエンハンサーを制御する(東京医科大学 発表資料より)

東京医科大学の中村卓郎特任教授らは、がん研究会(東京都江東区、浅野敏雄理事長)、京都大学と共同で、がんの新たな血管新生機構を解明した。希少がんの胞巣状軟部肉腫(ASPS)で血管形成に関わるエンハンサーと標的遺伝子を特定した。標的遺伝子には血管形成因子とそれらを運ぶ細胞内輸送促進因子が含まれ、これにより独特な血管構造を作ることが分かった。創薬研究に向け、この血管形成をマイクロ流体デバイス内で再現することにも成功した。輸送促進因子機能を抑える新しいがん治療法開発が期待される。

研究グループは、ASPSの原因融合遺伝子であるAT3を導入したASPSモデルマウスを作製。AT3を失った細胞をマウスに移植すると、血管形成が消失し、腫瘍増殖が著しく抑えられた。

AT3が血管形成を促進する遺伝子のスーパーエンハンサーに結合することを突き止め、エピゲノム編集技術によりスクリーニングした結果、血管形成に関わる四つの標的遺伝子を特定できた。

AT3は、これらの標的遺伝子を支配するエンハンサーを制御し、血管形成因子の産生と分泌を統括する。

さらに、マイクロ流体デバイスに肉腫と周皮細胞、血管内皮を導入して血管形成を再現し、血管内皮細胞の進展を評価した結果、四つのうち二つの標的遺伝子は細胞内小胞輸送に関わり、血管形成因子の輸送を促進することが示された。

ASPSは思春期や若年成人に好発し、腫瘍増殖は緩やかだが、血管形成が盛んなことから全身に転移しやすい。発生起源なども分かっておらず、効果的な治療薬はできていない。

日刊工業新聞 2023年04月12日

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