「タント」で実証…ダイハツが挑む「軽」ならではの自動運転とは?
ダイハツ工業は軽自動車ならではの自動運転技術に挑む。神戸市北区の住宅団地で2020年度に実証走行を始め、軽が得意な路地などで安全・快適な運転に必要な開発やデータ収集を進めてきた。高齢化や人手不足で日々の生活の移動が難しい地域で、軽独自の移動サービスを見込む。官公庁や異業種とも協力し、技術向上と社会実装に取り組む。(大阪・田井茂)
「狭い道も多い地域で自動運転を続けるのは例がない、とよく驚かれる。この地域での実証を大切にしたい」。ダイハツの薬師神宙夫くるま開発本部ソフトウェア開発部自動運転企画室長は、こう意欲を示す。実証地域は神戸市北区の筑紫が丘を中心とする住宅団地。造成から50年超たち、住民の高齢化が進む。丘陵地で坂も多く高齢者が出歩くのは容易でない。買い物や通院で楽に移動できる交通サービスは、差し迫った社会的な課題だ。
ダイハツの自動運転車は軽乗用車「タント」に全地球測位システム(GPS)や高性能センサー「LiDAR(ライダー)」、前方カメラを搭載する。路線バスのように走行ルートを設定し、距離は2キロメートル弱。あらかじめ事前走行し周囲の3次元地図データを取得しておく。運転時のデータを取得データと合致させ、GPSも合わせ位置を推定しながら自動走行する。先行車があれば追従し、歩行者や赤信号、障害物をセンサーとカメラで検知し止まる。手動運転と合わせ「自動運転レベル3」相当で走行する。技術成果は23年度以降ダイハツ独自の予防安全機能「スマートアシスト」にも導入する。
試乗すると、広い道路は違和感なく走行し赤信号もスムーズに止まる。信号は人工知能(AI)の学習効果で40メートル前から認識した。日中しか走行しないが誤認識は一度もない。軽自動車の便利さを感じたのは、住宅間の路地。狭くても軽なら難なく通り抜ける。ただ歩行者や前方車が近づくと停止し、よけることはできない。このためたびたび手動運転に切り替える。薬師神室長は「人や車の動きを予測するのは難しい」と限界も説明する。
ダイハツは神戸市が地域交通モデルを構築する事業に参画し、筑紫が丘での公道自動運転を担っている。内閣府の未来技術社会実装事業にも採択された。22年度には3月に走行し、アプリケーションによる予約も試行した。試乗は関係者に限るが、20年度から実走データを積み重ね安全性や乗り心地を向上してきた。
これに先立ち18―19年度には、軽乗用車の乗り合い移動サービスを実証実験した。数人の乗車ならばバスよりコストが安く、アンケートでも大半が有料で利用すると答えた。ただ、許容利用額では採算が合わないことも分かった。自動運転に切り替えたのはコストを下げる狙いもある。
ほかの課題も多い。地方は都会と違い、信号色が変わる情報配信のような交通インフラ(基盤)が少ない。信号が大型車で隠れ認識できない状況もある。自動運転の最善策は、車道と歩道を分ける歩車分離とされる。これもインフラの課題で、自動運転技術だけでは解決できない。薬師神室長は「自動運転の社会実装には協業が必要。運行やサービスなど異なる事業者が必要で、単独ではできない」と指摘する。筑紫が丘での自動運転には損害保険会社も加わり、事故リスクが最も低い走行ルートの自動算出ツール開発を進めている。
国は改正道路交通法で、完全自動運転となる「レベル4」を特定条件で23年4月から解禁した。軽自動車業界ではスズキも農作業の運搬負担軽減を目的に軽トラックで試験的に自動走行するなど、利用策が模索されている。軽の適性を生かせる用途開拓と協業の広がりが、移動サービスや個別利用での実現に欠かせない。
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