“巨艦・トヨタ”の変革は成就するか…EV時代へ新経営陣が示した姿勢
トヨタ自動車が「モビリティーカンパニーへの変革」へ動き出した。1日に発足した新経営陣は、2026年までに電気自動車(EV)販売を22年比で約60倍となる150万台にする新たな目標を発表。また自動車産業の構造が急変する中、社会インフラとしての自動車による付加価値創造に挑む姿勢を示した。新興勢が存在感を増す中、“巨艦・トヨタ”の変革は成就するか。競合を超える実行力とスピードが問われる。(編集委員・政年佐貴恵、名古屋・川口拓洋)
新たに10モデル 脱炭素 全方位戦略を堅持
「クルマの未来を変えていこう。これが新経営チームのテーマだ」。先週末に設けた新経営方針発表の場で、佐藤恒治社長はこう強調した。新たに打ち出したのが、知能化や社会システムと融合したコネクテッドカー(つながる車)など、トヨタとしてモビリティーのあり方を定義した「トヨタモビリティコンセプト」だ。
具体策としてビジネスモデルの確立も合わせたEV事業の本格化と、自社基本ソフト(OS)をベースにしたデジタル化の加速を打ち出す。また50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成に向け、35年の二酸化炭素(CO2)排出量を19年比で50%以上削減する中間目標も示した。
EVでは26年までの販売目標のほか、新たに10モデルを投入すると発表。30年に350万台という販売目標を掲げており、その中間目標を示した形だ。年内に新興国でピックアップトラックのEVの現地生産を始めるほか、24年には中国で現地開発したEVを2車種投入。米国では25年に3列シートのスポーツ多目的車(SUV)型EVの生産を始める。米国でのEVの現地生産を促すインフレ抑制法への対応も念頭にあり、宮崎洋一副社長は「需要が積み上がればさらに現地生産を進めていく」と説明する。
すでに26年に向け、よりEVに適したプラットフォーム(車台)を開発する方針を示しているが、合わせて専門部隊も新設する。5月の大型連休明けに正式発足する予定で、中嶋裕樹副社長は「しがらみを絶ち全く新しいことをやれるようにする」と力を込める。26年の次世代EVでは自動化やトヨタ生産方式(TPS)もフル活用して生産工程数を半減し、コスト競争力も高める。佐藤社長は「将来への仕込みを大胆に行い、普及期に向けた次世代EVを開発する」と話す。
ただEVは脱炭素化の有力手段の一つと位置づけ、地域に合わせて最適なパワートレーン(駆動装置)を展開する「マルチパスウェイ(全方位戦略)」の大前提は変えない。足元では1台当たりの利益がすでに、ガソリン車に比べて10%高いハイブリッド車(HV)がCO2削減と収益の両面で貢献役となるほか、プラグインハイブリッド車(PHV)でもEV航続距離を200キロメートル以上にする開発方針を掲げるなど、拡充に力を入れる。
クルマを社会システムの一部に
2月の体制発表以降、佐藤社長をはじめとする新経営陣は「モビリティーカンパニーへの変革」を強く訴えてきた。佐藤社長は次世代のクルマは「社会システムの一部として進化すべきだ」と断言。独自の車載OS「アリーン」を基盤に、使い勝手や走行性能も更新する未来を提示したほか、エネルギー関連など他社との連携も示唆しながら「クルマの新しい価値を提供する」と強調する。今後は次世代実証都市「ウーブン・シティ」での検証と社会実装のサイクルを回して、開発速度を高める方針だ。
ただソフトウエアの面で先を行く米テスラや中国の新興メーカーなどにどう対抗し、さらには勝ち抜いていくか、具体的な道筋は見えてこない。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは、新たな経営方針でEV販売の中間目標を示した点を評価しつつ、モビリティーカンパニーの実現については「アリーンやウーブン・シティの取り組みが具体的に示されていない点が、トヨタが描く次世代の姿を見えにくくしているのではないか」と指摘する。
中嶋副社長はソフトの進化に基づく車内娯楽といったインフォテインメントでは、中国勢などに対して「地域によって(良しあしの)評価が分かれる」と認めた上で、各地域の研究開発機能を強化し、現地のニーズをくみ取って開発する方針を示す。
この十数年で積み上げてきた地域との密着性を商品に生かす力と、原点とも言える良い物を良い価格で量産して多くに届ける点は、トヨタの強みだ。デジタルの領域でもこれを継承しつつ、勝ち筋を見いだせるのか。トヨタが目指す“モビリティーカンパニー”の具体的な姿や道程を、さらに踏み込んで示す作業が今後の重要課題となる。
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