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九大は准教授に年給1200万…若手人材争奪の“前哨戦”が始まった

大学や国立研究開発法人が若手への重点投資を進めている。10兆円の大学ファンドから投資を受ける国際卓越研究大学が稼働すると人材獲得競争は激しくなると想定され、その前哨戦が始まっているためだ。まずは国内の若手が恩恵を受けるが、世界から優秀な人材を集める仕組みとして機能するか注目される。(小寺貴之)

「10年間で計20億円を超える資金を投入する。大学としていかに力を入れるか分かってもらえると思う」と、九州大学の白谷正治副学長は説明する。「稲盛フロンティアプログラム」を創設し、年給1000万―1200万円の好待遇で准教授を募集する。想定年齢は35歳前後。九大の准教授は平均年齢47・6歳で、平均給与は880万円だ。同プログラムでは、10歳程度若い研究者に1―3割高い給与を払う。

年間5人ほどを採用する。研究予算や研究支援者雇用予算は5年間で3000万円以上。対象となった研究者は、教育や入試業務が原則免除され、研究に専念できる。九大が国際卓越研究大学の認定を目指すに当たり、打った一手だ。

理化学研究所は理研ECLプログラムを立ち上げた。従来の理研白眉制度を発展させ、35歳前後の若手に年給が1000万円、研究費は1000万―4000万円。研究室立ち上げ費として1000万円を支給する。

さらに30歳前後の若手には年給850万円で研究費は1000万円、研究室立ち上げが1000万円の雇用枠を新設した。それぞれ年間3人と同4人の狭き門だが、広く優秀な若手の情報が集まるようになる。

物質・材料研究機構は、より若い研究者の待遇を向上させる。世界から優秀な若手を集める若手国際研究センター(ICYS)の年俸を535万円から605万円に引き上げる。ポスドク研究者は博士課程の修了が27歳前後だ。任期は最長5年間で、年間200万円の研究費を支給する。

ICYSは若手のキャリアを後押しするための制度だ。着任3年半の段階で定年制への移行を審査し、最長5年間研究できる。この合格率は約6割。不合格であっても1年半かけて研究しながら次のポストを探せる。宝野和博理事長は「若手を使い捨てず、ステップアップしてもらうことが大切」と強調する。

NIMSジュニア研究員である大学院生の年俸は、博士課程の場合で246万円。従来比8%増になる。日本人の修士課程は年俸193万円と、同2・2倍に増やす。大学院生が生活費を稼ぐためのアルバイトをせずとも暮らせるように支える。これまで大学は大学院生に給与を払ってこなかったが、対応が必要になる。

大学ファンドは人の流れを変えるインパクトがあり、稼働前から各機関は知恵を絞る。現在の厚遇ポストは狭き門だが、研究大学や国研に広がり、一定の規模になると見込まれる。宝野理事長は「国内での若手の取り合いに終始してはいけない。世界から優秀な人材を集める必要がある」と強調する。

日刊工業新聞 2023年03月22日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
国際卓越研究大学へのエントリーは10校でした。文科省は数校、つまり2大学以上を選ぶ予定です。ただ要求水準は高く、1校も選ばれない状況もあり得るそうです。支援開始は2024年からなので、人材の取り合いは24年以降だろうと考えています。現実はそんなことなくて、地方大の先生も予算を獲得したら旧帝大に引き抜かれる状況があります。予算と人が付いてくるので鴨葱です。これには既視感があるので、大学ファンドのせいではないのかもしれません。ただ好待遇を打ち出す研究機関は増えています。若干名の枠であっても、選考を通して優秀な人材候補の情報を集められます。これは人の取り合いが激しくなったときにどこまでリーチできるか、手の広がりを決めるので大事なことなのだろうと思います。文科省は大学同士での人の取り合いに終始せずに、産業界に流れてきた人材を学術界に取り戻す努力をしてほしいそうです。博士への進学率を高めることが該当します。これを実現するには数校の大学を卓越大にするよりも、全体の底上げが有効なのではないかと思います。地域特色総合振興パッケージが機能することを祈るしかありません。

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