「何かをつくるなら墨田区へ」―創造拠点として注目されるワケ
開発拠点設立を補助、全国から問い合わせ
東京都墨田区の『新ものづくり創出拠点整備事業』が3年目を迎えた。同事業の補助を受け、区内企業が設立した拠点が各メディアに取り上げられ、全国から問い合わせが相次ぐなど注目される取り組みにまで成長している。22日には2015年度整備事業の説明会を開催し、「40社の参加が見込めそう」(郡司剛英墨田区)との見通しだ。現地の取り組みを追った。
4月10日、墨田区本所4丁目。電動車いすメーカー、さいとう工房(墨田区)が設立した『レルcommunity』の開所式が開かれた。ここでは、デザイナーやロボットクリエーターと連携し、電動車いすを開発する。斎藤省社長は車いすを通じた障害者の社会参加の活発化を目指す。東京パラリンピック開催を一つのゴールとし「来日した全選手分を配備し、障害者に優しい東京をつくる」と意気込む。
同事業は、区内の空き工場を改装して、区内の産業特性に合った新しい製品などを創出する拠点を整備しようとする区内企業が補助対象。(1)外部の人々がモノづくりに触れる機会を増やして、モノづくりへの理解や興味を深化(2)区内外の人と町工場がモノづくりでつながりコミュニティーを形成(3)デザイナーなど異分野の人材と町工場で出会いイノベーションを促進―の3要件をクリアする拠点整備を申し出て採択された企業に、改修費や設備購入費などを最大2000万円補助する。
背景には、減り続ける区内事業所数の実態があった。区の事業所数は70年(昭45)の9703をピークに、08年(平20)は3391まで落ち込んだ。「現在は3000を下回っている。このままでは明治期にメリヤスや石けんなど生活用品産業が集積したことでできた、近代産業発祥の地という区のアイデンティティーが失われる危機感があった」(郡司課長)。13年3月、区産業振興マスタープランを策定。「区経済をけん引してもらうべく、産業を盛り上げようとする意識の高い事業者を集中的に支援する」という区の基本姿勢を示した。同事業はこれを具現化したものだ。
14年度までに4件助成し、開所済み。すでに多くの人が見学に訪れ、実際の仕事につなげている。15年度はさらに4件の採択を予定し、22日に説明会を開く。「年を追うごとに会の参加者が増え、昨年度は30社が集った。今年はそれを超えそうだ」(同)。
行政からの問い合わせも多いという。「議会による視察のテーマによく選ばれているらしい。産業振興に自治体が苦労する中、先進例として興味を持ってくれれば、担当者としてうれしい」と郡司課長は笑顔だ。
何かを始めるなら、すみだへ―。マスタープランを記した冊子の裏表紙にはこう書かれている。新ものづくり創出拠点はこの言葉を体現すべく、奮闘を続ける。
【事例 浜野製作所】 研究機関と連携、業態転換に成功
区の補助を受けて新ものづくり拠点を開設した企業は、多くの見学者を受け入れ、また自社の仕事にもつなげている。浜野製作所(東京都墨田区、浜野慶一社長、03・5631・9111)は、「Garage Sumida(ガレージスミダ)」を開いた。CADソフトや3Dプリンター、レーザー加工機などを導入し、同社従業員が設計から加工まで担当。区内の協力工場にも一部の加工を依頼している。
浜野社長は東日本大震災の発生以降、より地域に密着したモノづくりをする重要性を感じ続けていた。「東京には研究機関やデザイナーなどが集結しているが、町工場がアプローチできていなかった。そこに市場があると仮説を立てて拠点を設計した」と振り返る。
結果は的中した。14年4月の開所から1年間で、約1万人が見学に訪れた。中小企業から大手のIT企業やメーカー、研究者に行政までと多岐にわたる。同拠点と本社工場を合わせて紹介することで新規受注にもつながり、開所以降、取引先が200社増えた。「注文の幅も広がり、単なる部品メーカーから、試作・量産・装置組み立ての一貫メーカーになれた」と業態転換も果たした。
今後は同拠点を舞台に、大企業とのネットワークづくりを仲介する考えだ。「企業が連携して新ビジネスのタネを作り出せる施設にしたい」と浜野社長は見据える。
【墨田区産業経済課長・郡司剛英氏「シナジー生む仕掛け模索」】
新ものづくり創出拠点整備事業の音頭を取っている墨田区の郡司剛英産業経済課長に、事業の現状や今後の課題について聞いた。
―同事業の反響はいかがですか?
「多くの企業や自治体から問い合わせなどが相次いでいることをみると、かなりの好感触だ。全拠点とも、外部人材が訪れやすいようオープンな設計にしている。より興味をもってもらうべく、各拠点が『誰に相談すればいいか分からないけど、ものづくりをしたい』という潜在的なニーズをくみあげる相談所のような機能に仕上げたり、修学旅行生に産業ツーリズムとしてモノづくりの文化を発信したりしている」
―成果は。
「新しい取り組みをしているということの訴求力、外部からの吸引力の面で拠点が大きな役割を果たすようになった。例えば革製品の開発拠点がワークショップでは1年間1000人以上が来場。関心の高さが伺え、『何かをつくるなら墨田区に行こう』という土壌が醸成しつつある」
―課題は。
「現在、運営者の自主性に任せて活動している拠点同士を結んで、シナジー効果を生み出せるような仕掛けづくりをしたい。例えば毎年11月に町工場を一般客へ開放する『すみだファクトリーめぐり』と連携するのも一つの手だろう」
4月10日、墨田区本所4丁目。電動車いすメーカー、さいとう工房(墨田区)が設立した『レルcommunity』の開所式が開かれた。ここでは、デザイナーやロボットクリエーターと連携し、電動車いすを開発する。斎藤省社長は車いすを通じた障害者の社会参加の活発化を目指す。東京パラリンピック開催を一つのゴールとし「来日した全選手分を配備し、障害者に優しい東京をつくる」と意気込む。
同事業は、区内の空き工場を改装して、区内の産業特性に合った新しい製品などを創出する拠点を整備しようとする区内企業が補助対象。(1)外部の人々がモノづくりに触れる機会を増やして、モノづくりへの理解や興味を深化(2)区内外の人と町工場がモノづくりでつながりコミュニティーを形成(3)デザイナーなど異分野の人材と町工場で出会いイノベーションを促進―の3要件をクリアする拠点整備を申し出て採択された企業に、改修費や設備購入費などを最大2000万円補助する。
背景には、減り続ける区内事業所数の実態があった。区の事業所数は70年(昭45)の9703をピークに、08年(平20)は3391まで落ち込んだ。「現在は3000を下回っている。このままでは明治期にメリヤスや石けんなど生活用品産業が集積したことでできた、近代産業発祥の地という区のアイデンティティーが失われる危機感があった」(郡司課長)。13年3月、区産業振興マスタープランを策定。「区経済をけん引してもらうべく、産業を盛り上げようとする意識の高い事業者を集中的に支援する」という区の基本姿勢を示した。同事業はこれを具現化したものだ。
14年度までに4件助成し、開所済み。すでに多くの人が見学に訪れ、実際の仕事につなげている。15年度はさらに4件の採択を予定し、22日に説明会を開く。「年を追うごとに会の参加者が増え、昨年度は30社が集った。今年はそれを超えそうだ」(同)。
行政からの問い合わせも多いという。「議会による視察のテーマによく選ばれているらしい。産業振興に自治体が苦労する中、先進例として興味を持ってくれれば、担当者としてうれしい」と郡司課長は笑顔だ。
何かを始めるなら、すみだへ―。マスタープランを記した冊子の裏表紙にはこう書かれている。新ものづくり創出拠点はこの言葉を体現すべく、奮闘を続ける。
【事例 浜野製作所】 研究機関と連携、業態転換に成功
区の補助を受けて新ものづくり拠点を開設した企業は、多くの見学者を受け入れ、また自社の仕事にもつなげている。浜野製作所(東京都墨田区、浜野慶一社長、03・5631・9111)は、「Garage Sumida(ガレージスミダ)」を開いた。CADソフトや3Dプリンター、レーザー加工機などを導入し、同社従業員が設計から加工まで担当。区内の協力工場にも一部の加工を依頼している。
浜野社長は東日本大震災の発生以降、より地域に密着したモノづくりをする重要性を感じ続けていた。「東京には研究機関やデザイナーなどが集結しているが、町工場がアプローチできていなかった。そこに市場があると仮説を立てて拠点を設計した」と振り返る。
結果は的中した。14年4月の開所から1年間で、約1万人が見学に訪れた。中小企業から大手のIT企業やメーカー、研究者に行政までと多岐にわたる。同拠点と本社工場を合わせて紹介することで新規受注にもつながり、開所以降、取引先が200社増えた。「注文の幅も広がり、単なる部品メーカーから、試作・量産・装置組み立ての一貫メーカーになれた」と業態転換も果たした。
今後は同拠点を舞台に、大企業とのネットワークづくりを仲介する考えだ。「企業が連携して新ビジネスのタネを作り出せる施設にしたい」と浜野社長は見据える。
【墨田区産業経済課長・郡司剛英氏「シナジー生む仕掛け模索」】
新ものづくり創出拠点整備事業の音頭を取っている墨田区の郡司剛英産業経済課長に、事業の現状や今後の課題について聞いた。
―同事業の反響はいかがですか?
「多くの企業や自治体から問い合わせなどが相次いでいることをみると、かなりの好感触だ。全拠点とも、外部人材が訪れやすいようオープンな設計にしている。より興味をもってもらうべく、各拠点が『誰に相談すればいいか分からないけど、ものづくりをしたい』という潜在的なニーズをくみあげる相談所のような機能に仕上げたり、修学旅行生に産業ツーリズムとしてモノづくりの文化を発信したりしている」
―成果は。
「新しい取り組みをしているということの訴求力、外部からの吸引力の面で拠点が大きな役割を果たすようになった。例えば革製品の開発拠点がワークショップでは1年間1000人以上が来場。関心の高さが伺え、『何かをつくるなら墨田区に行こう』という土壌が醸成しつつある」
―課題は。
「現在、運営者の自主性に任せて活動している拠点同士を結んで、シナジー効果を生み出せるような仕掛けづくりをしたい。例えば毎年11月に町工場を一般客へ開放する『すみだファクトリーめぐり』と連携するのも一つの手だろう」
日刊工業新聞2015年04月22日 中小・ベンチャー・中小政策面