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「京大方式」のVCは他のファンドとどこが違うのか

責任者に聞く。基礎研究に重点投資、事業化につなげることが責務
「京大方式」のVCは他のファンドとどこが違うのか

樋口氏(左)と阿曽沼氏

 国立4大学の出資事業で、京都大学のベンチャーキャピタル(VC)が投資ファンドを組成した。京大は民間からの出資を三井住友銀行1行に限定し、公的資金メーンのファンドとして基礎研究への投資を重視する構えだ。京大の阿曽沼慎司理事(産官学連携担当)と京都大学イノベーションキャピタル(京大iCap)の樋口修司社長に、京大の目指す方向性や他大学との違いについて聞いた。

京都大学理事(産官学連携担当)阿曽沼慎司氏


 ―1月4日にファンドが組成されました。
 「基礎研究に強みがある京大の幅広い学術研究の事業化を目指す。民間のVCが出資しにくい研究シーズに投資する。公的資金がメーンのファンドだからこそ、基礎研究に対して積極的な投資ができる」

 「一方で、京大が認定した民間VCが運営する投資ファンドとの連携が、他大学とは異なる特徴になる。日本ベンチャーキャピタル(東京都千代田区)、みやこキャピタル(京都市左京区)と情報共有し、一つの研究シーズを多方面からの投資で支える。京都にはチャレンジングな風土がある。人材の確保が成功へのカギになると考えている」

 ―京大独自の方針や目標については。
 「出資したベンチャー企業が社会に貢献し利益を生み、再び京大の研究に還元するような循環サイクルを作りたい。基礎研究を事業化のレベルまで持ち上げるため、ファンドの運用期間を15年に設定した。純粋な学術研究を実用化につなげていくことが京大の果たすべき責務だと思っている」
<略歴>
阿曽沼慎司(あそぬま・しんじ)74年(昭49)京大経卒、同年厚生省(現厚生労働省)入省。09年医政局長、10年厚生労働事務次官。13年京大iPS細胞研究所(CiRA)特定研究員。14年京大理事(産官学連携担当)。広島県出身、64歳。

京都大学イノベーションキャピタル社長・樋口修司氏


 ―リスクマネジメントについて、どのように考えていますか。
 「京大産官学連携本部の全面的なサポートがあることと、京大iCapがキャンパス内に拠点を構えていることが強みと捉えている。民間VC2社との連携体勢も構築した。研究者たちとの距離が近いという利点を生かした投資判断が可能になる。将来有望な大学の研究シーズを多く発掘でき、投資のリスクを低減できると考えている」

 ―年間の投資件数など、具体的な目標があれば教えてください。
 「民間ファンドが今まで積極的に投資できなかった大学内の手つかずの領域に焦点を当てる。事業化への呼び水になればと考えている。バイオ系など限られた研究分野だけでなく、文系も含め幅広く検討していく。ファンド組成以前より精査してきた投資先の候補から適格なものを選び、タイミングを見極めて投資を進める。数年間で数十社のベンチャー設立を想定している」
<略歴>
樋口修司(ひぐち・しゅうじ)63年(昭38)京大薬学卒、同年武田薬品工業入社。98年コーポレートオフィサー(上級執行役員)。02年先端医療振興財団参与。04年京大医学部付属病院医療開発管理部長、特任教授。14年京都大学イノベーションキャピタル社長。京都府出身、75歳。
【記者の目・「京大方式」人材確保がカギ】
 大阪大学東北大学に続き、京大のVCの運営骨格が固まった。再生医療など注目度の高い研究に限定せず、基礎研究を事業化に結びつける「京大方式」で勝負に出る。投資に対するリスクの懸念もあるが、認定ファンドやTLOとの連携体制を盤石にし、適切な投資判断でベンチャーの成功につなげてほしい。
(聞き手=川合良典)
日刊工業新聞2016年2月17日大学面
山口豪志
山口豪志 Yamaguchi Goushi Protostar Hong Kong 董事長
 大学発ベンチャーというのは非常に期待される。それは米スタンフォードやMITなどの先行成功事例によるところが大きい。日本でも大学での研究技術をベースに成功されているベンチャ―として、ユーグレナ、サイバーダイン、スパイバーなどの素晴らしい先行事例が実際にうまれてきている。一方で基礎研究のシーズを産業界のニーズにつなげて事業化するということが‘せんみつ’と言われるベンチャ―業界でどれほど難易度が高いことか。15年という期間設定が物語るように、基礎研究から産業界への距離は非常に遠い。そして、研究成果が社会に活用されるまで、多くの方々の協力と支援、努力と成果の連続が必要になる。その期待と課題を一身に受けて進む京大の取り組みは、私自身も期待値が高まる。だからこそ、急がず焦らず、温かく見守り、着実に一歩一歩と社会で活用される技術の実証実験を積み上げて頂きたい。

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