ニュースイッチ

次世代電池・自動運転…ソフトバンクが研究開発活動の発信を積極化するワケ

次世代電池・自動運転…ソフトバンクが研究開発活動の発信を積極化するワケ

AIを活用して10台の自動運転車を1人で遠隔監視するシステム

ソフトバンクの研究開発組織「先端技術研究所」が4月に設立から1年を迎える。これまで同社は技術色が薄いとされてきたが、昨今は同研究所を中心に研究開発活動を積極的に発信。このほど開いた展示会でも、自動運転や次世代電池など幅広い分野で成果を披露した。通信各社で第6世代通信(6G)時代を見据えた研究開発が加速する中、いかに他企業・団体へ共創を呼びかけ、新技術の実用化につなげられるかが問われる。(張谷京子)

ソフトバンクはADSL(非対称デジタル加入者線)や5Gの要素技術になった「Massive MIMO(マッシブマイモ)」など、多様な分野で研究開発を行ってきた。だが同社にとって研究開発は、新事業立ち上げに必要な活動の一つという位置付け。基礎研究部門を持つNTTKDDIと比べると、技術そのものを対外的に発信する機会は少ないとの見方もあった。

HAPS向けの電池パック

ただ、近年は技術の進化が目まぐるしい。5G・6Gなど通信の進化に伴い、自動運転やメタバース(仮想空間)などの開発競争も熱を帯びる。ソフトバンクも自社での技術開発を加速するとともに、積極的な情報発信を行って社外の機関との協業を促進する必要性が増している。

そこで2022年4月に設立したのが先端技術研究所だ。5G・6G、自動運転といった先端技術を研究開発する部門を、社長直下の組織として新設。応用研究を中心に、3年程度のサイクルで研究開発活動を行う。

先端技術研究所の湧川隆次所長は「論文を書くための研究ではなく、事業・サービスなど、皆の社会に役立つ研究を行う」と話す。基本的には従来の研究姿勢を維持する方針だ。ただ、同研究所は独立した組織。以前と比べてより動きやすく、活動内容の対外的な発信もしやすくなったと言える。

ソフトバンクは同研究所設立後初の技術展を、このほど開催。自動運転分野では、人工知能(AI)を活用して、10台の自動運転車を1人で遠隔監視するシステムを公開した。4月から一定の条件を満たせば公道で自動運転車を走行できる「レベル4」が解禁される一方、自動運転関連の仕組みはコストや維持費の高さが課題と考えられている。同システムの実証などを通じて、効率的に車両を監視できるようなサービスの実用化を目指している。

次世代電池分野の研究開発にも力を注ぐ。既製品の1・5倍以上の重量エネルギー密度を持つ電池セルで、高高度疑似衛星(HAPS)向けの電池パックを開発。成層圏での正常な動作実証に成功した。今後、実際のHAPSの動力源として大型電池パックの開発を目指すほか、産業用の飛行ロボット(ドローン)などへの搭載も検討する。

ただ、自動運転や次世代電池といった新分野に目を向けるのはソフトバンクだけではない。今後は他社・他団体との協業を含めた活動の実効性を高め、法人顧客や消費者にとって有用な商品やサービスの創出をどれだけ早く進めていけるか試されそうだ。

日刊工業新聞 2023年03月29日

編集部のおすすめ