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東芝非公開化へ続く“難所”、カギはTOBへの応募推奨

東芝は日本産業パートナーズ(JIP)による買収提案の受け入れを決めた。JIPは7月下旬をめどに東芝株を1株4620円でTOB(公開買い付け)して株式を非公開化する計画。買収資金の約2兆円は国内の事業会社17社と金融機関6社などによる出資や金融機関の融資などで集める。今後はJIPが各国で進める競争法や投資規制法をクリアする手続きの進捗(しんちょく)やTOBの成立などが大きなポイントになってくる。

JIPは各国の競争法や投資規制法の手続きを約4カ月で終える計画で、6カ月後までにTOBを開始できなければ買収の契約を解除される可能性もある。ただ、手続きは長期化することもあり、期間を予想するのは難しい。買収に向けた最初のハードルになる。

競争法などをクリアできた後に待つのがTOBだ。今回のTOBは株式の3分の2以上の応募がなければ成立しない。1株4620円という買い付け価格は、東芝の業績悪化などを背景に交渉の中で引き下げられた経緯があり、株主が価格をどう捉えるのかが重要になる。

ただ、この価格がアクティビスト(物言う株主)の簿価より高い水準にあるとみられることや、それらの株主の幹部が東芝の特別委員会に加わって今回の契約交渉を進めたことを考えれば、主要な株主はTOBに応じる公算が高い。TOBが成立すればスクイーズアウトと呼ばれる方法で残りの株式を買い取り、東芝を完全子会社とする方針だ。

完全子会社化が完了すると東芝の取締役は全員退任することになる。銀行が融資を約束したコミットメントレターには島田太郎社長の経営陣への留任が条件とされているが、買収後に条件が維持されるかは見通せない。

一連の手続きがスムーズに進めば東芝の買収と非公開化は完了するが、気になる点もある。東芝は今回、TOBに賛同を表明したものの、「現時点では株主に対してTOBへの応募を推奨することまではしない」とし、推奨を留保した。TOB開始までに4カ月程度の期間があり、買収資金の調達環境や世界的な金利の動向、東芝の企業価値の大きな部分を占めるキオクシアホールディングスの事業環境などに不透明さがあるため、TOBにより近い時点で株主への推奨を検討するという。仮に東芝が推奨しない事態になれば、TOB成立にも影響を与えると考えられる。

TOBまでの期間にJIPに対抗する買収提案が行われることもあり得る。実現可能性がある具体的な提案で、JIP案の1株4620円を上回る買い付け価格を提示する相手が現れれば、善管注意義務を持つ東芝の取締役は検討しなければならない。対抗案に対しJIPがさらに上回る提案をしなければJIPに20億円の違約金を支払って対抗案に乗り換える可能性がある。

約1年の交渉の末にJIPの買収案に合意した東芝だが、株式非公開化までの道のりにはまだ流動的な要素が立ちはだかっている。


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日刊工業新聞2023年3月27日

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