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「ワクチン市場」拡大、感染症対策意識を高めたコロナの影響

「ワクチン市場」拡大、感染症対策意識を高めたコロナの影響

KMバイオロジクス製の「インフルエンザHAワクチン」(Meiji Seikaファルマ提供)

国内のワクチン市場の拡大が進む。新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに、感染症対策の意識が高まり、インフルエンザなど主要なワクチンの需要は長期的に増える見込みだ。一方でワクチン接種は感染症の流行度合いに左右されるほか、製薬会社が供給してもどこまで実際の接種に結びつくかは予測が難しい。ワクチンを製造・供給する会社は、市場拡大を確実なものにするためにも新たな接種層への訴求などの対応が求められる。(安川結野)

富士経済によると、2030年の国内ワクチン市場(新型コロナ感染症ワクチンを除く)は21年比16・3%増を見込む。特に市場をけん引するのがインフルエンザワクチンで、30年は同32%増の739億円にまで拡大すると予想する。重症化リスクが高い高齢者の接種率は60%を超えており、高齢化が進むことで接種人口が増えることが一因だ。

また、22年のインフルエンザワクチン市場も新型コロナとインフルエンザの同時流行への警戒感が高まったため、同14・3%増の640億円を予測する。自治体や企業が接種に補助金を出すといった対応も、市場拡大を後押しする。

ただ、インフルエンザワクチンの国内メーカーは今後も市場は拡大すると見つつも、慎重姿勢を崩さない。KMバイオロジクス(熊本市北区)でワクチンを製造する明治ホールディングス(HD)は、22年のインフルエンザワクチンの供給量は過去最大となったものの、返品見積額を増額した。ワクチンを販売するMeiji Seikaファルマの担当者は「政府の要請に応えてインフルエンザワクチンの出荷量を増やしたが、接種率は想定を大きく下回った」と説明する。また「海外の流行状況にも左右されるため、長期的な市場予測は難しい」と指摘する。

こうした中、厚生労働省は2月、第一三共の経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミスト点鼻液」について販売承認を了承した。国内では初めての経鼻投与型の弱毒生インフルエンザワクチンで、第一三共は3月中の承認を見込む。

同社の担当者は「小児への接種がしやすくなる可能性がある」と説明する。経鼻接種という新たな選択肢が登場することで、幅広い層へのワクチン接種を促す。

コロナ禍で感染症対策への意識が高まり、ワクチン接種への抵抗感も低減した。一方で、そうした意識が他の感染症にも同様に広がるか、またワクチン接種に結びつくかは予測が難しい。国内の市場規模拡大に加え、国内での感染拡大を防ぐ上でも、誰もが接種できる安全なワクチンの開発や接種の啓発が重要となる。

日刊工業新聞 2023年03月21日

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