ANAが大きな賭け、貨物の基盤強化へ10月にもNCA買収
ANAホールディングス(HD)が日本郵船100%子会社の日本貨物航空(NCA、千葉県成田市)を10月にも買収する。コロナ禍では苦境に陥った航空会社の経営を航空貨物が支えた。物流網の混乱は収束して需要はいったん落ち込むが、単価の上昇傾向は続く見通し。ANAHDはNCAの買収で規模の拡大とネットワークの充実を図る。コロナ後の航空貨物需要を積極的に取り込み、経営基盤の安定につなげる。(編集委員・小川淳)
ANAグループの貨物事業は貨物機と旅客便の貨物スペースとを組み合わせた柔軟な「コンビネーションキャリア」が特色だ。日本を含む中国―アジア間で強みを発揮しているが、貨物の基幹路線であるアジア―北米の長距離便で活用できる大型貨物機は2機の保有にとどまる。
一方のNCAは大型機を含む貨物機を15機保有する。ANAHDの津田佳明経営企画部長は、NCAの買収で欧米便の不足という課題を「一気に解決する策になる」と説明する。両社合わせて貨物機の保有数は26機になり、世界での輸送規模(2021年)では9位に浮上するという。
ANAHDは貨物機を成田空港の発着路線に集約している。NCAも成田が拠点だ。旅客便や中型の貨物機によって中国アジアからの貨物を成田で大型貨物機に積み替え、北米や欧州まで運ぶ。そんな戦略が見えてくる。中長期的にANAグループの航空貨物事業会社ANAカーゴ(東京都港区)とNCAの統合も視野に入れる。
過去2年以上、コロナ禍に伴う海上貨物の混乱で航空貨物はその反射利益を得ており、苦境に陥った航空会社の経営を下支えした。ANAHDによると、国際貨物事業はコロナ禍前の19年実績を100とした場合、22年10―12月は単価で約3・3倍、売上高で約2・7倍に増えたという。ただ、海上貨物の混乱は収束傾向にあり、航空貨物の需要もいったん減少しつつある。
一方でANAHDの芝田浩二社長は航空貨物の単価について、「中長期的にはコロナ前の2―2・5倍を見込んでいる」と話す。サプライチェーン(供給網)の混乱を避けるため、半導体、電子部品、自動車部品など付加価値の高い製品で航空貨物を利用する層が増えたほか、医療・医薬品の需要も急拡大している。このため、世界の航空貨物の需要はコロナ前には戻らず、拡大する傾向が続くとみられる。
ただ、直近ではNCAは債務超過の状態にあり、ANAHDも23年3月期の連結当期損益の黒字は3期ぶりなど、財務基盤は万全の状態ではない。NCAの買収は大きな賭けとなる。