鉄道事業でシステムインテグレーターへの転換を目指す三菱電機
M&A足がかりに海外で電機品の単品売りからの脱却は可能か
三菱電機が欧州やアジアなどグローバル市場で、鉄道車両用電機品の事業体制を強化している。インドに初めて工場を開設し本格開拓に乗り出したほか、欧州でも1―2年内に買収先の生産能力を現行比1・5倍に高める。また推進制御装置や空調装置など各種電機品を総合的に提案する活動を本格化する。世界の鉄道車両需要が堅調に伸びる中、世界各地で足場を固めてシェアの拡大を狙う。
「省エネや小型化が強みだ。鉄道の欧米ビッグスリーを振り向かせたい」。電機品など鉄道システム事業を担当する菊池高弘常務執行役は、市場開拓に自信を示す。2020年度には営業利益率で5%以上を確保し、世界でトップシェアを目指す意向だ。
まず注力するのが欧州だ。「市場は年率2―3%で伸長している。特にシステム関係や保守サービスの需要が大きい」(証券会社アナリスト)とされる。また独シーメンスなど大手車両メーカーは空調装置の製品群を有しておらず、参入できる余地も大きい。
13年にはイタリアの鉄道車両用空調装置メーカーであるクリマットファーを買収。新会社「三菱電機クリマット・交通システム」(パドヴァ市)として取り込み、同社をテコに欧州市場を深耕する。16年度にも戦略機種を開発し、省エネ性や小型化などを訴求した製品を投入する。また受注増に備え、空調装置メーカーの生産能力も増強する構えだ。
一方、インドでは「シェアを伸ばす良いタイミング」(菊池常務執行役)として工場を設置。推進制御装置や補助電源装置、主電動機を生産する。さらに以前納入した電機品の保守や更新需要も顕在化するため、これらも取り込む考えだ。営業部隊も増強し、将来は高速鉄道案件の受注も視野に入れる。
ただ業界内では中国など新興国メーカーが台頭しており、製品単品売りのビジネスでは利益率に限界も出てきた。そこで利幅の拡大に向け、電機品を包括的に受注するビジネスに着手した。いわばシステムインテグレーターへの転換だ。「15年には一つ受注できた」(同)という。
鉄道車両業界ではメーカーの再編が進み、価格競争も激化している。「今後、電機品の価格が厳しくなるのは避けられない情勢だ」(証券会社アナリスト)。三菱電機は事業体制の強化とビジネスモデルの再構築を急ぎ、低価格化の波を乗り越えようとしている。
(文=敷田寛明)
富士電機はカナダの鉄道車両用ドア開閉装置メーカーを買収する。米国子会社の富士電機アメリカを通じ、2月中旬に同メーカーから株式の51%を取得することで合意した。買収額は数億円とみられる。北米で車両用電機品事業を拡大し、2020年度に北米での売上高を現在比4倍の100億円を目指す。
買収するのは「セメック」(ケベック州)。子会社が米ニューヨーク州でドア開閉装置を生産している。従業員は33人で、北米で多くの納入実績を持つという。富士電機は買収後、社名を「フジ セメック」に変更し、設計・生産技術を供与。製品力を強化して北米で拡販する。米国製品の優先調達を定めた「バイ・アメリカン法」への対応力も強化する。
文=仲谷能一(みずほ銀行産業調査部調査役)
世界人口は増加が続くと予想されており、その大宗が新興国で起こると言われている。既に新興国では都市部への人口集中が加速し、自動車の交通渋滞が常態化している。このような問題を解決する手段として、経済性や環境性が高いとされる鉄道が注目されており、各国政府は鉄道インフラの整備を加速度的に進めている。こうした中、鉄道会社に各種製品・システムを納入する鉄道システム関連企業も一定の恩恵を受けているが、足元では日系企業の受注環境は厳しさを増している。その背景として、(1)新興国の鉄道会社のフルターンキー化ニーズ(2)中国企業の台頭―の2点が挙げられる。
まず、前者について、新興国の鉄道会社は総じて鉄道インフラの整備に関するEPC(設計・調達・建設)の技術に乏しいことから、EPCを外注する傾向が強い。そのため、新興国では鉄道ビッグ3と称される独シーメンス、仏アルストム、加ボンバルディアのような鉄道システムの取りまとめを行うことができるシステムインテグレーターの存在感が高まっている。
システムインテグレーターは鉄道システムの主要な構成要素である車両、電機品、信号・運行管理システム、コンピューターシステム等を内製化し、場合によって鉄道会社から運行管理や保守の一部を業務として請け負うなど、トータルソリューションを提供できる構えを形成している。
後者の背景について、中国政府は国家戦略の一環として海外へのインフラ輸出を掲げており、鉄道システムを同戦略の要と位置付けている。2015年6月に中国が主導する形で、資金力の乏しい新興国のインフラ整備を支援するアジアインフラ投資銀行が設立された。また、同月に中国政府は国営鉄道車両メーカーの南車と北車を統合して中車を設立し、圧倒的な価格競争力を有する世界最大の鉄道車両メーカーを誕生させた。このような中国政府の施策はファイナンス対応力・価格競争力で劣後する日系企業にとって脅威と言えよう。
これらを踏まえ、日系企業は新興国においてバリューチェーンの拡大を進めることと合わせて、価格競争が激化する分野から技術差別化が可能な分野に事業の軸足をシフトすることが求められる。日系企業が強みを有する技術の一つとして省エネ技術が挙げられる。
例えば、日系企業が開発を進める蓄電池搭載車両は、電力コストの低減効果や送配電設備の投資負担軽減等が期待されている。このようなメリットを新興国の鉄道会社に対して訴求していくことが受注獲得にあたっての鍵となろう。
「ビッグスリーを振り向かせたい」
「省エネや小型化が強みだ。鉄道の欧米ビッグスリーを振り向かせたい」。電機品など鉄道システム事業を担当する菊池高弘常務執行役は、市場開拓に自信を示す。2020年度には営業利益率で5%以上を確保し、世界でトップシェアを目指す意向だ。
まず注力するのが欧州だ。「市場は年率2―3%で伸長している。特にシステム関係や保守サービスの需要が大きい」(証券会社アナリスト)とされる。また独シーメンスなど大手車両メーカーは空調装置の製品群を有しておらず、参入できる余地も大きい。
13年にはイタリアの鉄道車両用空調装置メーカーであるクリマットファーを買収。新会社「三菱電機クリマット・交通システム」(パドヴァ市)として取り込み、同社をテコに欧州市場を深耕する。16年度にも戦略機種を開発し、省エネ性や小型化などを訴求した製品を投入する。また受注増に備え、空調装置メーカーの生産能力も増強する構えだ。
新興国メーカーが台頭、利益率に限界も
一方、インドでは「シェアを伸ばす良いタイミング」(菊池常務執行役)として工場を設置。推進制御装置や補助電源装置、主電動機を生産する。さらに以前納入した電機品の保守や更新需要も顕在化するため、これらも取り込む考えだ。営業部隊も増強し、将来は高速鉄道案件の受注も視野に入れる。
ただ業界内では中国など新興国メーカーが台頭しており、製品単品売りのビジネスでは利益率に限界も出てきた。そこで利幅の拡大に向け、電機品を包括的に受注するビジネスに着手した。いわばシステムインテグレーターへの転換だ。「15年には一つ受注できた」(同)という。
鉄道車両業界ではメーカーの再編が進み、価格競争も激化している。「今後、電機品の価格が厳しくなるのは避けられない情勢だ」(証券会社アナリスト)。三菱電機は事業体制の強化とビジネスモデルの再構築を急ぎ、低価格化の波を乗り越えようとしている。
(文=敷田寛明)
富士電機、カナダの車両ドアメーカー買収
日刊工業新聞2016年1月29日付
富士電機はカナダの鉄道車両用ドア開閉装置メーカーを買収する。米国子会社の富士電機アメリカを通じ、2月中旬に同メーカーから株式の51%を取得することで合意した。買収額は数億円とみられる。北米で車両用電機品事業を拡大し、2020年度に北米での売上高を現在比4倍の100億円を目指す。
買収するのは「セメック」(ケベック州)。子会社が米ニューヨーク州でドア開閉装置を生産している。従業員は33人で、北米で多くの納入実績を持つという。富士電機は買収後、社名を「フジ セメック」に変更し、設計・生産技術を供与。製品力を強化して北米で拡販する。米国製品の優先調達を定めた「バイ・アメリカン法」への対応力も強化する。
鉄道システムの業界構造はどう変わる
日刊工業新聞2015年11月17日
文=仲谷能一(みずほ銀行産業調査部調査役)
世界人口は増加が続くと予想されており、その大宗が新興国で起こると言われている。既に新興国では都市部への人口集中が加速し、自動車の交通渋滞が常態化している。このような問題を解決する手段として、経済性や環境性が高いとされる鉄道が注目されており、各国政府は鉄道インフラの整備を加速度的に進めている。こうした中、鉄道会社に各種製品・システムを納入する鉄道システム関連企業も一定の恩恵を受けているが、足元では日系企業の受注環境は厳しさを増している。その背景として、(1)新興国の鉄道会社のフルターンキー化ニーズ(2)中国企業の台頭―の2点が挙げられる。
まず、前者について、新興国の鉄道会社は総じて鉄道インフラの整備に関するEPC(設計・調達・建設)の技術に乏しいことから、EPCを外注する傾向が強い。そのため、新興国では鉄道ビッグ3と称される独シーメンス、仏アルストム、加ボンバルディアのような鉄道システムの取りまとめを行うことができるシステムインテグレーターの存在感が高まっている。
システムインテグレーターは鉄道システムの主要な構成要素である車両、電機品、信号・運行管理システム、コンピューターシステム等を内製化し、場合によって鉄道会社から運行管理や保守の一部を業務として請け負うなど、トータルソリューションを提供できる構えを形成している。
後者の背景について、中国政府は国家戦略の一環として海外へのインフラ輸出を掲げており、鉄道システムを同戦略の要と位置付けている。2015年6月に中国が主導する形で、資金力の乏しい新興国のインフラ整備を支援するアジアインフラ投資銀行が設立された。また、同月に中国政府は国営鉄道車両メーカーの南車と北車を統合して中車を設立し、圧倒的な価格競争力を有する世界最大の鉄道車両メーカーを誕生させた。このような中国政府の施策はファイナンス対応力・価格競争力で劣後する日系企業にとって脅威と言えよう。
これらを踏まえ、日系企業は新興国においてバリューチェーンの拡大を進めることと合わせて、価格競争が激化する分野から技術差別化が可能な分野に事業の軸足をシフトすることが求められる。日系企業が強みを有する技術の一つとして省エネ技術が挙げられる。
例えば、日系企業が開発を進める蓄電池搭載車両は、電力コストの低減効果や送配電設備の投資負担軽減等が期待されている。このようなメリットを新興国の鉄道会社に対して訴求していくことが受注獲得にあたっての鍵となろう。
日刊工業新聞2016年2月11日 電機面