静岡大学発ベンチャーの創出加速を支えてきた「カルテット」
静岡大学の産学連携、ベンチャー創出を加速してきた「カルテット」-。浜松キャンパスを中心に静大発ベンチャーは2004年の第一号を皮切りに、特にこの約10年間で加速し、教員シーズで累計43社、23年中には同50社をうかがう勢いだ。静大の産学連携などを主に担ってきたのがイノベーション社会連携推進機構。長年、静大の産学連携を牽引してきた電子工学研究所長の木村雅和教授に加え、地域と関わりを密にしてきた同機構の鈴木俊充特任教授や、産業界での経験を生かして産学連携に関する活動をしてきた鈴木正人氏、資金面などを担ってきた同機構部門長の小嶋豊誠特任教授というさまざまな連携が融合するキーパーソン4人の存在がある。
地元での高い知名度
「県内の大企業から中小企業まで尋常じゃない知名度だ」。木村教授がそう評するのが、鈴木俊充特任教授だ。鈴木特任教授は静岡県産業振興財団で長年、県内の中小企業の新事業支援などに取り組んできた。その経験を生かし、12年ほど前、同機構にインキュベーションマネージャーとして転じた。科学技術振興機構(JST)の施策などがある中で、「ここ数年は若い先生らが高い意識で取り組んでおり、アドバイスしている」と語る。大学シーズから事業化について教授らにアンケートを取るなどきめ細かい対応を続ける。静大について「他大学に比べると教授らが(研究を)事業化しやすい環境にあると思う」と語る。
産業界と知財を知る
鈴木正人氏は大手輸送機メーカーで産学連携を含めた新規事業を担ってきた。その後、静大で9年間、17年には同機構の部門長に任ぜられ、国の地域イノベーション・エコシステム形成プログラムの取り組みなどを進めてきた。「企業の考え方が分かるのでさまざまなコーディネートができた」。正人氏は22年4月からは浜松医科大学の研究協力課で医工連携の産学官連携に尽力している。次に目指すのは「浜松地域の中小企業は多くは自動車に関わるモノづくり企業だ。良い要素技術を持っている中小企業だからできることと、医療現場のニーズとを掛け合わせたら新しいことが生まれる」と力を込める。静大と浜松医科大との医工連携も進めたい考えだ。
大学発の技術開発、企業との連携促進には資金面での充実も重要だ。小嶋特任教授は弁理士の資格を持ち、関西の電機メーカーで知財に携わってきた。8年ほど前から静大に転じ、18年に上記国プロに時間を割かれる正人氏から同機構の部門長のバトンを引き継いだ。
取り組んできたのは研究に生かす資金の獲得だ。例えば、企業との共同研究において試作費など経費を実直に積み上げている教授らが多かったが、さらに付加価値として技術指導料を獲得できるよう制度面を含めて整備した。小嶋特任教授は「教授らの技術を、より正当に評価してもらうために重要だ」と説く。教授らのモチベーション向上につながるほか、企業にも理解を得ることで、研究のより円滑な事業化につながるとみる。また今後は、特許に関わらない技術でいかに付加価値をつけるかにも取り組む。県内の農産物などで静大シーズを活用した商品に対し、静大認定商品制度を設けることを視野に入れ、使用許諾料を通じて教授らの資金面での充実につなげる。
新たな地域の産学連携モデルを
こうした強みを生かされて創出されてきた静大発ベンチャーは、人工知能(AI)を活用したサービスのエクサウィザーズ(東京都港区、旧デジタルセンセーション)、X線検出器の設計開発のANSeeN(浜松市中区)など、株式上場や大手との資本提携などの飛躍をみせる企業が出てきた。23年中に計50社を狙う勢いだ。また学生発ベンチャーが生まれる動きも出てきており、この体制をステップに「30年には100社を目指したい」(木村教授)と語る。
新たな展開もある。木村教授は22年4月から静大の電子工学研究所長と兼任で静岡理工科大学の学長を担う。静大は世界トップの研究をしている大学である一方、静岡理工科大は卒業生の多くが地元の中小モノづくり企業に就職し、地域に貢献する技術者を輩出している。お互いの特徴を補完し、新たな成長モデルを構築できる可能性があるとみる。
木村教授は「静大が地域の中小企業と連携しやすくなる。静岡理工科大が関わる地元企業がグローバル展開の時に静大の技術が役立つ時がある」と相乗効果の意義を説明する。
木村教授ら「カルテット」の取り組みが、今後も静大からの新たな産学連携モデルを具現化させていく。
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静岡大学イノベーション社会連携推進機構
https://www.oisc.shizuoka.ac.jp/
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