【ディープテックを追え】道路の損傷を判定。インフラを守るAIの正体
高度経済成長期に整備した道路や橋などのインフラをいかに守るか。国や自治体がインフラのメンテナンスを担うが、負担感は大きい。そこで期待される技術が人工知能(AI)だ。今や街中に広がるスマートフォンや車載カメラがインフラを守る役割を担おうとしている。
インフラへの興味が出発点
「船が渡るところに橋が架かる。これだけで車で船に渡れるようになり、移動時間が半分になる」。AIで道路状況を点検するサービスを手がける、アーバンエックステクノロジーズ(東京都渋谷区)の前田紘弥代表はインフラの重要性を口にする。前田代表は長崎県五島列島の出身だ。「山にトンネルを作れば早く移動できる。当たり前なのだが、インフラが生活を支える点に興味を持った」。
大学では土木工学とソフトウエアを組み合わせ、道路の損傷画像をAIに学習させる研究を始めた。前田代表は「道路のデータを取集している研究者はほかにいなかった」と語るように独自性が強い研究だった。大学院卒業後、一度は就職したが「研究を持続させながら、社会に役立つものを作っていきたい」と起業を決めた。
スマホや車載カメラがインフラを守る
アーバンエックステクノロジーズが取り組むのは、スマートフォンや車載カメラの映像を使った道路の損傷個所の把握だ。
一つが車に設置したスマートフォンで損傷個所を把握するサービスだ。検知した損傷個所の画像は自動でサーバーに保存される。その画像をもとに修繕計画を立てる。従来は道路のメンテナンスを担う職員が循環し、異常を発見して修繕してきた。同サービスを使えば、移動中などに異常を発見でき、修繕により多くの時間を割くことができる。ある自治体では同サービスを導入後、年間の道路修繕を3倍に増やせた。すでに全国で20以上の自治体で利用されている。
もう一つが三井住友海上火災保険との協業だ。同社のドライブレコーダーを設置した車両から取得した画像を基に道路の損傷を見つける。このデータを自治体向けに提供する。
現在は道路の点検に注力するが、「盛り土や切り土は現在の技術を応用できる」(前田代表)とほかの分野にも広げる。海外展開も見据える。人口減少の中、インフラをいかに守るか。AIにかかる期待は大きい。
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