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鶏卵をやさしくつかんでパックに詰め込む「6軸多関節」の手さばき

八千代ポートリーがファナック製ロボを導入し封入無人化
鶏卵をやさしくつかんでパックに詰め込む「6軸多関節」の手さばき

鶏卵の封入作業に6軸多関節ロボットを採用

 八千代ポートリー(横浜市港南区)は養鶏場から出荷された卵の封入作業にファナック製の6軸多関節ロボットを採用した。畜産業は慢性的な人手不足に直面し多くの企業が外国人の労働力に頼る中、同社はロボットの導入で活路を見いだす。導入後、従業員の負担軽減、省人化、生産性向上などにつながった。ただ、工業以上にロボット化のハードルは高く、今後も試行錯誤を続けながら導入効果を高めていく。

 「畜産業は3Kのイメージが強く、労働力不足が深刻。大半の企業が、外国人技能実習制度の実習生を人数枠いっぱいまで受け入れている」―。笠原政利社長は業界の実情をこう説明する。実習生は3年働いた後、本国へ戻るのが通常の流れ。人の入れ替わりは激しく、採用・教育の手間やコストが大きな課題になっている。

 対応策として推し進めているのが、ロボットの活用だ。2014年に、可搬質量12キログラムのファナック製6軸垂直多関節ロボット「M―10iA/12」を初めて導入。コンベヤー上を流れるパックに、ロボットが卵を次々と詰め込んでいくシステムを構築した。現状の設定では、毎時約1400パック分の封入が可能。「従来2―3人くらい必要だった工程を無人化できた」(笠原社長)という。

 「他にもロボットを活用できる工程があるのでは」と笠原社長は期待する。例えば、封入後のパックをスーパーマーケット向けのケースに入れる単純作業。今は原則として全て人が行っているが、「担当者の腰などに負担がかかっている」(同)。

 だが、ロボット化は簡単ではないようだ。ケースはスーパーごとに仕様が異なり、形状、大きさなどがまちまち。1日に10種以上のケースを扱うことが多いという。多種多様なケースにロボットで対応できるのか―。「ロボットメーカーの方などの知恵も借りながら、検討していきたい」(同)という。

 畜産業は環太平洋連携協定(TPP)により新たな国際競争の時代に入る。鶏卵の関税は段階的に撤廃される予定。「現状では米国の競合にコスト面で太刀打ちできない」と笠原社長は危機感をあらわにする。このため競争力の確保という観点でも、ロボットへの期待は大きい。

 主に工業用途で発展してきたロボットの業界にとって、畜産業は未知の世界。これまで両者の接点は限られていた。しかし笠原社長は「我々の業界の現場を見てもらえれば、ビジネスチャンスの発見がたくさんあるはず」と断言する。双方が盛んに意見を交わすことでロボットの新たな用途が生まれ、畜産業側の課題が解決に向かうことを期待したい。
(文=藤崎竜介) 
日刊工業新聞2016年2月12日 ロボット面
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
工業用途では拡大成長に限界があるため、産ロボメーカーも食品や流通といった新たな業界の開拓を強化している。個人的には人がやりたがらない単純作業をロボットに置き換える動きは、あらゆる方面でメリットがあり賛成だ。課題は記事にもあるように、少量多品種生産が多く作業を一般化しにくいこと。特に食品業界は中小メーカーも多く、量的な規模が少ない場合が多い。解決に必要なのは画像認識技術による状況判断の高度化と動作教示の簡便化、加えてハードルが高いのがハンド部分。人は指先の微妙な感覚で柔らかさや重さなどを判断して作業につなげている。最近は触覚センサーや力覚センサー技術が発達してきており、課題の解決につながっていきそうだ。

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