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グーグルがDCで活用、データ処理高速化・消費電力削減を実現する「光スイッチ」の世界

クラウドを基盤とした各種サービスが普及し、データセンターで処理するデータ量は年々増加している。データセンター内の各種サーバーを接続するネットワークスイッチにはスイッチ用ASIC(特定用途向けIC)が搭載されている。データ量の増加に対応するため、ASICの処理能力はムーアの法則を上回る速さで向上している。今後、AIの学習に特化したサーバーの導入もあり、処理量の増加に拍車がかかると予想される。データ処理の高速化を実現し、それに伴う消費電力の増加を抑制する技術として、光スイッチが有望視されている。

2022年8月、大規模なデータセンターを運用するGoogleは、従来の電気スイッチを光スイッチに置き換えて一部のデータセンターを運用していることを発表した。従来比で5倍の高速で動作させながら、消費電力の4割削減を達成した。

光スイッチにはさまざまな種類があり、それぞれに特徴がある。Googleが使用しているのは微小電気機械システム(MEMS)ミラーを用いた方式である。微細加工により、半導体チップ上に作製したミラーに高電圧を加えて、機械的に光の経路を切り替えている。この光スイッチは100個以上の光経路を低い光損失で取り扱うことができるが、切り替え時間に10ミリ秒程度を要し、機械的に動作するため長期信頼性や大量生産性に課題がある。

産業技術総合研究所(産総研)ではこの課題の解決のため、シリコンで作製した光集積回路により、マイクロ秒(マイクロは100万分の1)で切り替え動作する高速光スイッチの研究開発を行っている。これは光回路上に集積したマイクロヒーターで光経路を切り替えるため、機械的に動作する部分がなく、長期にわたって信頼性が高い。また、半導体と同様な手法で大量生産できるため、製造コストも低い。この方式の光スイッチを産総研は世界に先駆けて実証して以来、世界で常に先導的な立場にある。

残された課題は、データセンター内で実際に使用されているさまざまな波長や偏波の光信号を扱えるようにすることである。これが解決すれば、実用化は間近である。
産総研 プラットフォームフォトニクス研究センター フォトニクスシステム研究チーム 主任研究員 鈴木恵治郎
大学院生時代に出会った、シリコンを材料として光集積回路を作製する技術は、究極的に高密度な光回路を実現できる手段だと考えている。そこに面白さを感じ、自身の研究の軸としている。光スイッチに限らずさまざまな光デバイスの集積化を進めている。
日刊工業新聞 2023年01月12日

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