燃料高騰でビジネスモデルが成立しない…苦境の新電力に突きつけられる課題
新電力が苦境に立たされている。資源エネルギー庁によると新電力が最も存在感を発揮していた中小工場やビル向けの高圧契約で、2022年10月の新規契約は約5年ぶりに20万口を下回った。10月の高圧のシェアはピーク時から9・2ポイント減の20%になった。新電力の多くは自前の発電設備を持たず、卸電力市場で電力を仕入れて再販するビジネスモデル。昨今の燃料価格高騰に伴う卸電力価格の高騰でこの方法は成立しなくなってきている。(編集委員・板崎英士)
電力販売の自由化は2000年に大規模工場向けの特別高圧から始まり、04年に中小工場やビル向けの高圧、16年に家庭向け低圧を含め全面自由化された。この過程で、卸電力市場での仕入れを前提に一部相対で購入し再販する小売り事業者が乱立、さまざまな電力メニューを考案して高圧市場で存在感を高めた。ただ20年末に卸電力のスポット価格が急騰、いったん収まったものの21年秋以降、世界的な燃料価格の高騰で再び上昇し22年2月のウクライナ危機以降は高止まりしている。
多くの販売メニューで販売するほど赤字が増える逆ザヤ状態に陥っており、体力のない新電力の退場が増えている。帝国データバンクによると新電力の倒産や廃業、事業撤退は22年3月時点で31社だったが6月に104社に増え、11月28日時点では706社中の146社に急増した。
財務基盤が脆弱な小規模事業者だけでなく、大手資本でも撤退に追い込まれるケースが増えている。東北電力と東京ガスが折半出資した法人向け電力小売りのシナジアパワーは12月に自己破産を申請した。卸電力市場での調達は15%に過ぎず、85%は出資2社の電源から相対調達していたが、それでも営業継続は難しかった。
電気事業法に基づく新電力の登録事業者数は約700社だが、このうち事業実績がほとんどない企業も相当数あると見られ、さらに2月時点で18社が事業休止中としている。また新電力ネットなどの調査によると、小規模の太陽光発電まで含め発電設備を持つ新電力は数百社あるが、22年9月時点で自社で発電した電力を販売しているのは100社に満たない。
一方、事業撤退した新電力と契約していた企業は一時、電力難民となり大手送配電の最終保障供給を受けざるを得なくなった。足元では大手電力が中止していた標準メニューでの契約を再開しつつあり、新電力からの戻り契約が増える傾向にある。電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は「新電力には自前の電源を持ってほしいし、発電事業をそういう魅力ある事業にしないと」と言う。
22年末から大手電力でカルテル疑惑や新電力の顧客情報の不正閲覧など、電力市場の公正性を疑わせる事案が相次ぎ発覚した。電力業界への新規参入を増やし電力価格を下げるという自由化の狙いは現時点では大きく外れている。昨今の状況を教訓とし正常な競争ができる環境をいかに再整備するか、国にも業界にも大きな課題が突き付けられている。