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“特色大学”東京農工大が認定ファンド第1号を組成した背景

“特色大学”東京農工大が認定ファンド第1号を組成した背景

今回のファンド組成は、規制緩和後で初の事例となる(東京農工大の農学部本館)

東京農工大学は民間ベンチャーキャピタル(VC)のBPキャピタル(東京都中央区、松多洋一郎社長)と連携し、「認定ファンド」第1号を組成した。同大などの国立大学発スタートアップ(SU)支援に向けたもので今後、同大が自ら獲得した資金を使い、ファンドに出資する。ファンドの規模は最大10億円の予定で、特に環境、食料、農業分野の事業が投資対象。SUの上場益などを基礎研究などに再投資する自律的サイクルを確立していく。

認定ファンドは国の規制緩和により、2022年度から可能になった仕組み。今回のファンド組成は、規制緩和後で初の事例となる。

経済産業・文部科学両大臣からファンド組成に関する認定を得た。東京農工大は出資計画について文部科学相の認可を経て、今春に同ファンドに出資する。

投資対象は農学分野の創業期SU。他の国立大発SUへの投資も可能だ。ただしファンド総額に占める同大からの出資額の割合以上を同大発SUに投資する必要がある。ファンドの事業期間は10年間。

従来、国立大のVCファンド出資は国費を用い、東京大学京都大学など4大学の官民ファンドを対象に実施されていた。その他の国立大は大学発SU投資を手がける民間ファンドと提携するしかなかった。

この場合は大学に特許実施料は入っても、上場益の還元はない。22年秋の同大発バイオ系SU「ティムス」の上場時も同様だった。

新たな認定ファンドは全ての国立大で可能。ただし自己収入による出資金確保が必要となる。

同大の千葉一裕学長は「SU成功には基盤研究や人材育成など各プロセスが必要だ。本学は動物病院の収入などで経営を拡大し、投資の原資を確保する。資金を投じて最後まで関わり、次のイノベーション創出につなげていく」と強調する。

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日刊工業新聞 2023年01月26日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
大学10兆円ファンドによる「国際卓越研究大学」は、教員1人当たりの論文数などにより、特色ある中小規模大学にも開かれている。東京農工大は応募を公言している数少ない特色大学だ。VCの認定ファンド第1号は「国立大学において、政府資金に頼らない初のチャレンジが認められた」ということだから、国際卓越研究大学の審査の上で評価ポイントとなることは間違いないのではないか。他大学でも女子枠創設や統合など、ここ数年を振り返ってもアグレッシブな取り組みが出てきている。国際卓越研究大学の議論が、資金の実際の支援よりずっと前から、国立大の大胆な改革を後押ししている、といえるのではないか。

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