車載ビジネスで飛躍なるか、パナソニックHD成長への試金石
パナソニックホールディングス(HD)は持ち株会社制への移行で成長への足がかりをつかめるのか。その試金石となるのが、自動車向けのビジネスだ。電池や電子部品、カーナビゲーションシステムなど有力な製品群を擁しながらも、パナソニック全体をけん引する成長エンジンとまではなりきれない状況が続いていた。HD傘下で事業会社となった車載関連3社は、自動車の電動化という大きな波に乗れるのか、そしてパナソニックグループを大きく飛躍させることができるのか。(大阪・大原佑美子)
パナソニックHDが自動車関連を成長の柱に据えたのは最近のことではない。15年以上前、松下電器産業時代に当時の大坪文雄社長が2011年3月期に同事業で売上高1兆円の目標を掲げている。12年に社長に就いた津賀一宏会長も、デジタルテレビ事業の失敗による巨額赤字を黒字転換させた後の成長領域に“車載と住宅”を指名。それぞれの売上高を倍増し、18年度に各2兆円に引き上げる方針を掲げた。
現在、パナソニックグループの事業会社で車載関連を手がけるのは3社。米テスラに電気自動車(EV)用電池を供給するパナソニックエナジー、フィルムコンデンサーなど車の電動化に必要な電子部品を担うパナソニックインダストリー、そしてカーナビゲーション、車載カメラなど快適走行に必要なシステムを提供するパナソニックオートモーティブシステムズだ。これら3社の業績から推定すると、22年3月期でグループ全体で車載関連の売上高は約2兆円に達する。
テスラ以外の顧客獲得加速
ただ着実に成長は遂げてはいるものの、物足りなさは否めない。大坪時代の06年3月期の車載関連が約6900億円。そこから15年以上で約3倍に拡大したが、パナソニック全体の売上高は9兆円弱から約7兆4000億円(22年3月期)へとむしろ後退。車載事業で大きく成長を遂げた日本電産と比べると歴然たる差がある。同社は12年3月期からの10年で車載事業では843億円から4176億円へと5倍近く、全体の売上高も3倍へと大きく伸ばした。
パナソニックの車載事業のポテンシャルが日本電産に引けを取るわけではない。中でも注目されるのが、EVの基幹部品であるリチウムイオン電池(LiB)を手がけるパナエナジーだ。楠見雄規パナHD社長も成長領域の一つとして期待をかける。世界的なEV用車載電池の旺盛な需要を受け、22年7月には約5200億円(40億ドル)を投じて米カンザス州に新工場を建設すると発表。24年度中の量産を目指す。
テスラと共同運営するギガファクトリー1(ネバダ州)に次ぐ、米国では2カ所目のEV電池工場。高容量で高い安全性を持つ電池という評価を強みに、米カヌーや米ルーシッド・モーターズなどへの電池供給も決まり、新工場でテスラ以外の顧客獲得を加速する。
人材戦略が成長のカギ
ただ車載電池では海外メーカーとの競合は激しくなる一方。中国の寧徳時代新能源科技(CATL)や韓国のLGエネルギーソリューション(ES)などからの攻勢に、シェアは押され気味だ。自動車大手との提携戦略でもCATLなどから後れを取っている。
業界関係者からは「(09年に買収した)三洋電機の技術者を大事にせず、主戦場となる海外で勝負できる人を育ててこなかった弊害が出ているのでは」という指摘もある。
実際に「人」は事業戦略の鍵となっており、パナオートの永易正吏社長は「重要な人材リソース獲得を積極的に行う」と強調する。パナエナジーやパナインダは新体制発足早々、人材獲得も目的として都心に新拠点を設けることを決めた。各社とも外部からの優秀な人材の獲得や、社員のやる気向上を目的に、人事制度改革などにも乗り出した。人材を起点として成長を実現できるか注目される。
【続き】CASE関連増産に900億円…車載関連事業トップが語る展望
【関連記事】 パナソニックグループが頼りにする異能の変革集団