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【ディープテックを追え】不妊治療に新技術。iPS細胞で卵子作成

#118 Dioseve

iPS細胞で不妊治療の課題を解決する―。こうした野心的な目標を掲げるスタートアップがいる。Dioseve(ディオシーヴ、東京都文京区)だ。同社はiPS細胞由来の卵子を生殖医療に応用する。海外では事業化を目指すスタートアップがすでに生まれている。倫理など課題は多いが、実用化した際のインパクトは計り知れない。

iPS細胞から卵子を作る仕組み

ディオシーヴの岸田和真代表が起業を志したのは、高校生の時だ。C型肝炎と診断され、パイロットになる夢もあきらめた。そんな時、医師から「3年待てば良い薬が日本に来る」と聞かされた。この治療でC型肝炎を治療した岸田代表は「自分では、どうしようもない不平等を解決できる薬を作りたい」と決めた。狙いに定めたのはiPS細胞を使った卵子による生殖医療。卵子の老化や排卵障害などの解決を目指す。

iPS細胞はさまざまな細胞に分化できる特性を持つ。iPS細胞から卵子を作ろうとする取り組みは世界中で行われている。一つのアイデアがiPS細胞をステップごとに分化させ、卵子を作るというもの。これは2016年の九州大学の林克彦教授と京都大学の斎藤通紀教授らのマウスでの研究に基づくものだ。

人の卵子ができるまでのステップはこうだ。まず発生初期の胚にある「始原生殖細胞」や初期の胎児の卵巣にある「卵原細胞」ができ、それが成熟すると女性の卵巣にある「原始卵胞」になる。さらに一部の原始卵胞が育って卵子ができる。これをiPS細胞で再現する。

この方法には課題もある。まずは期間だ。ステップごとに分化させるため、高額な成長因子を投入し続けながら、培養期間が1か月程度必要だ。加えて胎児の卵巣に似た環境で培養する必要があり、技術のハードルは高い。

卵子のイメージ(同社提供)

ディオシーヴは米ワシントン大学/ハワード・ヒューズ医学研究所の浜崎伸彦特別研究員が開発した技術を使う。iPS細胞をステップごとに分化するのではなく、直接卵子を作成する。複数の遺伝子を発現させるだけで済み、成長因子を使わない。マウスの卵子での実験では培養期間を5日程度と大幅に短縮した。理論上、iPS細胞の数だけ卵子を作ることができる。岸田代表は「従来の方法に比べ、培養期間を含めたコストは下げられる。既存技術の持っていた課題を解決できる可能性を秘めている」と強調する。すでにマウスでiPS細胞由来の卵子から受精卵を作ることに成功。受精卵の細胞分裂が途中で止まってしまう課題があるため、研究を続ける。将来は不妊治療を行う患者の細胞からiPS細胞由来の卵子を作成。これをクリニックで活用するビジネスモデルを構想する。

岸田代表(同社提供)

技術以外の課題はやはり倫理だ。日本のガイドラインでは人のiPS細胞から作った卵子と精子を受精させる研究は禁じられている。岸田代表も「倫理の問題は真剣に考えている」とし、「技術が進化し(iPS細胞由来の不妊治療の)実現性が出てくることで、議論も活性化するのではないか」と話す。同社は10年後をめどに、人での不妊治療に役立てたいとしている。

海外でもスタートアップが誕生

まずは研究用マウスの卵子提供から事業を始める。研究機関が必要に応じて受精させ、実験動物の調達をしやすくする。その後、小型霊長類のマーモセットでも同様の事業を展開し、人での実用化を目指す。

米国では皮膚細胞から卵細胞へのリプログラミングを目指すGametoや16年の九大などの研究成果をベースにするConceptionといったスタートアップが生まれている。岸田代表は「コストやマウスの受精卵を作った研究進捗から我々に優位性がある」と強調する。一方、日本で事業展開する以上、資金力では劣る。そのため海外のベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達も視野に入れる。今後はマウスを使う製薬や畜産の品種改良などで、卵子を利用した共同研究を進めたいという。同時にオルガノイドなどの研究者を採用していく計画だ。

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