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原発廃炉ロボット「試行錯誤」続く

福島第1原発1号機は調査方法変更
原発廃炉ロボット「試行錯誤」続く

IRIDと東芝が開発したサソリ型調査ロボ

 廃炉ロボットの正念場が続いている。東京電力福島第一原子力発電所の1号機では、溶け落ちた燃料デブリの調査方法を変更し、ロボットを作り直す。2号機では調査ロボットを格納容器内に投入するための入り口の周辺を除染できずに調査作業が停滞している。極めて高度なリスク管理や技術が求められるだけに、思うように進まない歯がゆさがある。廃炉ロボットの開発は他の分野に比べ試行錯誤できる回数が少ない。廃炉のノウハウ蓄積や人材育成が課題だ。

1号機、スピードよりも「リスク低減」重視


 東京電力福島第一廃炉推進カンパニーの増田尚宏プレジデントは「スピードよりもリスク低減を重視して廃炉を進める。必要なら一度立ち止まって考える」と方針を説明する。一つの作業に二重三重の安全対策を講じる必要があるため、スピードとリスク管理の両立は難しい。格納容器内用の調査ロボットの開発は、PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを一度回すだけでも年単位の時間がかかっている。

 1号機向けでは技術研究組合「国際廃炉研究開発機構(IRID)」と日立GEニュークリア・エナジーがヘビ型ロボを開発。2015年春に格納容器内の1階に投入して、内部の線量やがれきの飛散状況を確認した。格子状の床(グレーチング)の隙間から地下階に広がる水面を観察したほか、地下階へ降りるためのルートに障害物がないことも確認した。

 当初、後続の調査ロボで水中に潜り、燃料デブリを直接観察する調査を15年度内に予定していたが、調査法を変更しロボットを設計し直す。調査の実施は16年度のできるだけ早い時期を目指している。

ワカサギ釣り方式


 調査法を変更したのは地下階の複雑さが理由だ。震災前も配管や装置が所狭しと配置されていた。さらに事故後は水没し、水が濁っているため視界は数十センチメートル先までしか確保できない。ロボットを投入してもケーブルが装置などに引っかかってしまい、すぐに動けなくなると予想された。

 そこで1階のグレーチング隙間からカメラを降ろして燃料デブリを観察する調査法(通称ワカサギ釣り方式)に変更した。高さは約3・5メートルで水深は約2・5メートル。カメラの吊(つ)り下げと巻き取りを繰り返し、燃料デブリの広がり方を調べる。1階はロボットが走った実績があり、水中を走るよりも確実性は高い。ただ観察できる燃料デブリは限られる。

 溶融した核燃料は原子炉の炉心から溶け落ち、炉心を支えるペデスタルにたまっていると考えられている。ペデスタルは厚いコンクリートの筒状の壁だ。核燃料はペデスタル内部でコンクリートや装置を溶かして混ざり合い、複雑な融合物になっている。ペデスタルには作業員が中に入るアクセス口があった。1号機ではこのアクセス口から燃料デブリがペデスタルの外に広がっていると考えられている。

内部観察が課題


 問題はワカサギ釣り方式ではペデスタル内部に入れず、外に広がった燃料デブリしか観察できない点だ。ペデスタル内の燃料デブリの取り出し方法を決めるには、硬さや状態を把握する必要がある。

 ワカサギ釣り方式とは別に調査方法を用意しないと内部は観察できない。ペデスタル内にロボットを直接送り込める「X6配管」の周辺は線量が高いため除染が必要だ。だが具体的な除染計画はない。

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日刊工業新聞2016年2月8日「深層断面」から一部抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
ミューオン透視では燃料デブリの細かな様子はわからず、ロボットによる直接観察が本命でした。ですが1号機ではペデスタル内部に入らずに外縁を調 査します。ただカメラでデブリの表面が見えても内部はわかりません。デブリのサンプルを採って帰る方法も検討しているとのことですが、具体的な計 画はありません。「まずは直接観察」といいつつ、5年が経とうとしています。レーザーやダイヤモンドカッター、どうやってデブリを切り出すのか、 アプローチは格納容器の横からか上からか。17年6月をめどに取り出し方針を決める予定です。本当に正念場です。ヘビ型ロボは一度動けなくなって います。ワカサギ釣りロボ はなんとか上手くいってほしい。 (日刊工業新聞社編集局科学技術部・小寺貴之)

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