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立地勝負は終焉か、デジタル活用で「薬局」が迎えた転換点

地域医療の推進や競争を生き残るため、薬局がデジタル変革(DX)を積極化している。DXを活用し、業務効率化や医療費の削減、付加価値の高いサービス提供に取り組むなど、カウンター越しに薬を受け渡しする従来のやり方から、場所を選ばずより患者に寄り添うサービスが提供できる薬局へと進化が求められる。(安川結野)

「これまで患者は病院が診る時代だったが、在宅医療など地域で診る時代へと移っており、薬局も対応が求められる」。アクシスの新上幸二取締役は薬局の置かれている状況を説明する。病院の外来診療を受けた患者に薬を渡すといった店舗型の業務を中心としていた薬局が、在宅医療の対応や他の医療機関と連携する「地域連携薬局」としての役割を担うよう変化している。

政府は、病院で治療して社会復帰を目指す「病院完結型医療」から、療養が必要な高齢者を地域や在宅で診る「地域完結型医療」へと転換を図る。地域医療に貢献する業務には保険点数を加算するなど制度を変更。急性期の患者は高度な設備を持つ病院で対応する一方、慢性期や療養が必要な患者は地域や自宅で診ることで医療の機能やキャパシティーの有効活用につなげようとする。

利益につながるため地域医療への対応を進める薬局は増えているものの、従来の業務に加えて訪問先で実施した服薬指導の記録など新たな業務が発生し、負担となっている。そこで、薬局のDXをサポートする新たなサービスが次々と出てきている。

アクシスが展開するクラウド型サービス「メディクス」は、処方薬の情報や服薬指導などの記録「薬歴」の作成に必要な文章が例文化されており、選択するだけで記録できる。薬歴の入力業務は薬剤師にとって大きな負担だったが、メディクスにより入力時間が従来比3分の1ほどに短縮することが可能だ。また薬の注意事項や副作用などがあらかじめシステムに登録されており、患者への情報提供も円滑に行える。

クラウド型のため、特に薬局外での業務で効果を発揮する。患者の自宅などを訪問した際に、タブレット端末で訪問調剤の服薬指導や患者情報をその場で記録できる。紙などに一度記録し、薬局に帰ってあらためて記録し直すといった手間がなくなり、薬剤師はより多くの訪問調剤に取り組んだり、患者1人当たりの対応時間を長くしたりでき、サービスや医療の質向上が期待される。新上取締役は「薬局の業務は対モノから対ヒトへと変化している」と話す。

ファーマシフト(東京都港区)が展開する「つながる薬局」では、患者は対話アプリケーション「LINE」を使ってあらかじめ薬局へ処方箋情報を送ることにより薬局での待ち時間を短縮できるほか、オンラインで薬や健康についての相談もできる。

つながる薬局の利用画面(ファーマシフト提供)

一方、薬局は管理画面から患者の電子お薬手帳を閲覧でき、他の薬局から出ている薬との重複や飲み合わせに問題ないかなどを確認できる。より質の高いサービス提供を可能とすることに加え、過剰な処方をなくすことで医療費高騰の抑止にもつながる。

医薬品医療機器等法(薬機法)の改定で、薬剤師による服薬指導や情報提供が義務化した。患者が決められた薬を正しく飲んだかや健康管理、薬がどれくらい残っているかといったフォローも薬剤師の重要な業務となった。こうした業務にデジタルツールを活用することで、薬剤師はより患者の状態を把握しやすくなり、また患者もより手軽に薬剤師へ相談ができるようになる。

「これまで薬局は立地勝負の側面があったが、今後は選ばれる薬局づくりが必要になる」とファーマシフトの松原正和副社長が言うように、薬局の在り方は大きな転換点を迎えている。現在全国には約6万店の薬局があるが、多くは近隣に医療機関があるいわゆる「門前薬局」だ。今後、医師の高齢化などでクリニックの閉院が進めば、薬局が患者の取り合いになる可能性がある。

そうした中、例えばつながる薬局を導入すれば、他の薬局との差別化につながる。患者にとってより身近な薬局となり、遠方の病院で診療を受けた場合でも、門前薬局ではなくつながる薬局を導入している薬局に処方箋を送るケースが実際に増えているという。

高齢化社会が進み、医療の課題はますます増えていく。薬局も業務効率化や生き残りのためサービスの質向上が求められており、いかにデジタルツールを活用して患者のニーズに応え、利用しやすい薬局となれるかが問われている。

日刊工業新聞 2023年01月04日

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