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「アンモニア船」「帆搭載船」…脱炭素に積極投資する海運会社の危機感

「アンモニア船」「帆搭載船」…脱炭素に積極投資する海運会社の危機感

日本郵船のアンモニア輸送船(イメージ)

世界的な脱炭素の流れに向け、日本郵船商船三井川崎汽船の3社が積極的な投資を続けている。脱炭素の取り組みに消極的な姿勢を見せれば、荷主企業からは選ばれなくなるという危機感が背景にある。外航海運はコロナ禍によるコンテナ船の運賃高騰の結果、歴史的な好業績をあげており、稼いだ利益で温室効果ガス(GHG)を排出しない「ゼロエミッション船」や風の力を利用する推進装置の開発などを急ぐ。(編集委員・小川淳)

アンモニア船脱炭素の切り札、外航で注目

「特に上場企業や消費者向けの製品を取り扱う企業が敏感になっている」―。商船三井の橋本剛社長は、脱炭素に向けた荷主側の意向が強くなっている現状をこう説明する。米アマゾン・ドット・コムや、スウェーデンの家具大手イケアなどの国際企業グループは商品の海上輸送について40年までにゼロエミ船だけを使う方針を示すなど、海運業界でのGHG排出量の大幅削減は喫緊の課題となっている。

国際海事機関(IMO)では50年までにGHG排出量を08年比で50%以上削減する方針を打ち出しているが、大手外航海運はそれよりも踏み込み、50年までに排出量ゼロを実現する方針を掲げる。

外航海運は収益拡大を背景に新造船の整備を進めている。液化天然ガス(LNG)を燃料とする船舶だけでなく、燃焼してもGHGを排出することがないアンモニアや水素などの代替燃料で運航する船舶も30年代以降に就航する。

脱炭素の切り札として外航海運で注目されているのはアンモニア燃料だ。日本郵船は日本シップヤード(東京都千代田区)やジャパンエンジンコーポレーションなどと共同で、26年度までにアンモニアを燃料とするアンモニア輸送船を就航する計画だ。

また、将来のアンモニア燃料への転換を見据えたLNG燃料船のコンセプト設計も積極的に進めており、アンモニアのサプライチェーン(供給網)が整った段階で船舶を改造する。50年には船隊構成の半分程度までアンモニア燃料船を導入する方針で、船舶のゼロエミッション化などで50年までに2兆1000億円を投資する。

商船三井も三菱造船(横浜市西区)、名村造船所と共同でアンモニアを燃料に使う大型アンモニア輸送船の開発などを進めるほか、川崎汽船も伊藤忠商事、日本シップヤードなどと載貨重量20万トン級のアンモニア燃料の大型バラ積み船の開発を進め、26年に就航させる。

ただ、日本の年間のアンモニア需要は100万トン程度で、このうち大半が肥料用だ。世界的に見ても燃料用のアンモニアは需要も供給も不足している。日本政府は50年までに発電や燃料用に年間3000万トンの需要を創出する目標を掲げおり、国際的なサプライチェーンの構築は必須だ。

LNG燃料の供給を受ける「さんふらわあ くれない」

23年4月に日本郵船の社長に就任する曽我貴也取締役は、「脱炭素化に向けた取り組みは日本郵船1社では達成できない。海運業界や造船業、舶用機器メーカーなど海事クラスターと一体となって取り組み、ともに成長していきたい」と強調し、オールジャパンで脱炭素に取り組む姿勢を説いている。

LNGを燃料とする船舶の導入が相次いでいる。LNG燃料は重油よりGHGの排出量を3割程度抑えられる。また、LNGの運搬船では燃料として長年使用されている実績もある。

アンモニアや水素などの代替燃料を使用する船舶の本格導入は30年代以降とみられている。このため、「今すぐできることとして、LNG船の導入を積極的に進めたい」(商船三井の田中利明副社長)という思惑があり、“つなぎの技術”として積極的に活用しようとしている。

商船三井は30年までにLNG燃料船を90隻投入する方針を掲げる。22年8月にはLNGを主燃料とする大型船6隻を新造すると発表した。ケープサイズ(積載重量15万トン超)のバラ積み船4隻と、載貨重量約30万トンの大型原油タンカー2隻で、いずれも25―26年の竣工を予定する。総投資額は数百億円規模とみられる。30万トン級の原油タンカーでLNGを主燃料とするのは日本初となる。

また、同じく同社が発注した日本で初めてとなるLNG燃料のフェリー2隻のうち、1番船の「さんふらわあ くれない」が13日から大阪―別府航路で投入される予定だ。2番船も同航路で4月以降に就航する。さらにもう2隻のLNG燃料フェリーの建造を決めており、25年に竣工し、大洗―苫小牧航路に就航する予定だ。

一方、世界最大の約120隻の自動車運搬船を運航する日本郵船は、LNG燃料の自動車船の整備を進めており、28年度までに20隻を就航させる。一連の投資額は約2000億円となる。

また、LNGを燃料とするバラ積み船では、世界初となる大型石炭船1隻とケープサイズバルカー5隻の建造を決定しているほか、22年11月には新たに2隻のLNG燃料の大型石炭船を発注し、25年に就航すると発表している。

川崎汽船も26年度までの5カ年中期経営計画で、2500億円をLNGやアンモニアなど代替燃料船舶に投資することを計画しており、30年代前半にはLNG燃料船を中心に、代替燃料船舶を約60隻そろえる方針だ。

帆搭載船風の力で推進、燃費改善

入港した縮帆状態の松風丸

代替燃料船が実現したとしても、アンモニアや水素などの燃料は高価となるため、燃費を改善する省エネ技術の開発も引き続き重要だ。また、代替燃料船が本格導入されるまで時間がかかることから、今できる技術でのGHG排出量削減も求められる。

現在、注目されているのは風の力を推進力として船舶の運航を支援する技術だ。「風は無尽蔵にある」(商船三井の山口誠執行役員)ことから、最新の技術を駆使して燃費の改善に役立てる。

商船三井では、繊維強化プラスチック(FRP)製で高さ53メートルまで伸びる「硬翼帆(こうよくほ)」を採用した風力推進装置「ウインドチャレンジャー」を搭載した最初の船舶「松風丸(しょうふうまる)」を22年10月に就航させた。東北電力用の石炭輸送船として大島造船所(長崎県西海市)が建造したもので、同年11月には豪州からの石炭を積み込み、東北電の発電所に初入港した。

シーウイングを大型バラ積み船に搭載したイメージ

従来の同型船と比べ、帆1本当たりのGHG削減効果は日本-豪州航路で約5%、日本-北米西岸航路で約8%をそれぞれ見込んでいる。複数本の搭載や既存船へも対応可能だ。2隻目は米企業向けの木質ペレット輸送のバラ積み船に決定しており、24年に竣工する。今後、さらに搭載船を拡大していく。

商船三井の橋本社長は、「急に全部の船をアンモニアや水素に置き換えることはできない。少しでも燃料の使用量を減らす工夫を積み重ねないといけない」と意義を強調する。

一方、川崎汽船では、凧(たこ)による風の推進力を利用して省エネ航行するシステム「シーウイング」を開発しており、大型のバラ積み船に搭載した実証実験を近く始める。船首部に凧を取り付け、風を利用することで、消費燃料が平均約2割削減できるという。欧州エアバスから分社した仏エアシーズと開発を進めてきた。

既存の船舶にも簡単に取り付けることが可能だ。24年完成のJFEスチール向けの大型バラ積み船など2隻に加え、バラ積み船3隻への搭載を決めた。

風の力による推進力はあくまで省エネの一環で補助的な仕組みではあるが、燃費改善効果は大きい。これから多くの船で帆や凧を搭載した姿が見られるかもしれない。

日刊工業新聞 2023年01月01日

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