ニュースイッチ

金利上昇・地政学リスク…懸念材料多い2023年、建機トップたちが語る注力点

金利上昇・地政学リスク…懸念材料多い2023年、建機トップたちが語る注力点

日立建機の8トン型電動ショベル。欧州市場での販売で先行する

建設機械業界は2023年の少なくとも前半は成長の継続が期待できそうだ。世界経済の先行きに対する不安はあるものの、22年に受注残が積み上がっており、この下支え効果が見込める。原材料やエネルギー価格は高止まり状態だが、鉱山機械にとっては石炭の利用増加は追い風になる。とはいえ年後半になるほど、不透明要素は多い。金利上昇、インフレによる米国市場減速や欧州経済の不振、ロシアや中国に対する地政学リスクなどが懸念材料になる。他方で電動化や自動化、安全対策のニーズは23年も変わらず、建機メーカー各社とも開発に力を入れそうだ。(編集委員・嶋田歩)

コマツが神奈川県平塚市の研究所に設置しているFC研究設備

コマツは22年10月、22年度の建機の需要予測を4月予想から見直した。欧州を前期比横ばい―5%増から同5%減―横ばいに下方修正、東南アジアと鉱山機械は上方修正した。鉱山機械はインドネシアの伸びなどがけん引しており、鉱山会社の投資意欲も旺盛だ。エネルギー高騰の影響で石炭需要が復活したほか、過去の需要のピークだった11―12年度に導入した鉱山機械が更新期を迎えているとの指摘もある。

石炭需要の増加と、コストのかかる建機電動化への流れは相反関係に見えるが、建機メーカー各社は「石炭需要増加は一時的であり、地球温暖化防止の観点からリチウムイオン電池(LiB)など電動化の動きは今後も不変」との見方で一致する。環境意識が高い欧州のユーザーは、価格が2―3倍しても電動ショベルを選ぶ実情もある。

北欧のノルウェーや米カリフォルニア州のように電動以外のショベルに対する規制や、電動化の補助金制度導入を観測されるところもある。中国は言わずと知れた電気自動車(EV)大国であり、世界各国で電動化の動きが進めばミニショベルを中心に流れが加速する可能性も大きい。コマツや日立建機はLiBだけでなく、よりパワーと稼働時間の大きい燃料電池(FC)ショベルや水素エンジンショベルの研究に着手している。

中国市場の建機は需要の落ち込みが23年も継続する可能性が強い。コマツや日立建機の場合、建機の売上高に占める中国比率は3%程度と低いが、工場の合理化・縮小と余剰生産能力の活用は引き続き重要テーマになる。地政学リスクは大きいものの、中国は鋼材や部品を安く調達できる利点もあり、日米欧以外への完成車の輸出や、将来の電動ショベル普及を見据えた研究開発で各社知恵を絞ることになりそうだ。

電動化市場導入元年に/コマツ社長・小川啓之氏

―金利高・インフレ進行の米国をはじめ世界的規模で経済の不透明感が増しています。
 「北米市場は良くて22年比横ばい、欧州は減少とみている。米国の住宅着工件数は減っているが、エネルギーや道路インフラ関連の需要は堅調で、これが下支えする。中国は引き続き、減少とみる。アジアはコロナ禍からの回復と公共工事などで伸びが続くだろう」

コマツ社長・小川啓之氏

―22年はサプライチェーン(供給網)の混乱による生産・販売への影響や、原材料、物流費の高騰に悩まされました。
 「一般半導体はここへ来て品不足の緩和が言われているが、電子コンポーネント向けのパワー半導体はまだ厳しい。鋼材も国内では高止まり状態が続いている。23年も値上げ交渉を進める。物流の混乱や原材料不足の影響で受注残が積み上がっており、これをはかないといけない。部品の複数社調達と(世界各国の拠点で融通する)クロスソーシングの活用で継続的な供給に注力する。為替は1ドル=140円台に戻る可能性は低いとみている」

―中国工場やロシア工場について。
 「中国工場からは22年にインドネシアと中南米に約3500台のショベルを輸出した。23年は中国国内の需要がさらに落ち込むとみており、適正化に注力する。生産能力を年1万7000台から1万台に落とし、構造改革も進める。ロシアについては1万5000台の生産能力があり、2000人以上の従業員がいる。製造物責任法(PL法)の絡みがあるためサービスと部品供給は続けている。規制強化で供給できない部品が増えているが、多分に政治的問題であり、日米欧でさらに規制強化の動きがあれば従う。ロシア事業の見直しも必要になるかもしれない」

―電動化の研究は。
 「22年にドイツで開かれた国際建機見本市『bauma2022』は文字通り、電動化一色だった。同展に出展した20トンクラスの電動ショベルや3トンクラスの電動ミニショベルは量産を開始し、日本・欧州市場に導入予定。23年を電動化市場導入元年と位置付け、市場形成に向けた取り組みを加速していく。鉱山向けダンプトラックについては、バッテリートロリー(架空線集電)車の開発を進めるとともに、燃料電池(FC)などゼロエミッション(排出ゼロ)動力源の先行研究開発を進めていく。小山工場(栃木県小山市)に累計30億円を投資して水素エンジンやFC実験施設を整備する。開発人材の数は限られるので、外部との協業も積極活用する。自動化の研究も同じだ。ベンチャーやスタートアップに出資して、開発の速度を上げていく」

米州立ち上がり順調/日立建機社長・平野耕太郎氏

―22年3月に米ディア・アンド・カンパニーとの合弁関係を解消し、米州で自前営業に乗り出しました。
「米州の立ち上がりは想定以上に順調だ。23年の北米市場は金利高やインフレ進行などの懸念要因はあるが、前半は少なくとも強いとみている。コロナ禍や半導体不足などが響き、米国のユーザーはここ2年ほど必要な台数の建機を買えていない状況。年後半は何とも言えないが、顧客の購入計画のペースは決して落ちていない」

日立建機社長・平野耕太郎氏

―電動ショベルの拡販計画は。
 「販売は欧州が先行する。日本は関心は高いものの購入となると価格がディーゼル車の2・5―3倍高いネックがある。欧州はこの点、行政の支援措置などがある。20年に発売し累計70台販売した8トン車について、23年度は累計100台到達を目指す。2トンや5トン、13トン車も拡販する。8トン車を購入するユーザーは環境意識の高い個人客。実際に使って排ガス削減や静音などの利点を確認し、2、3台目をレンタルで追加導入する傾向が強い」

「米国では環境規制に積極的なカリフォルニア州の動向に注目している。それに中国市場。電気自動車(EV)の台数があれだけあることを考えると、リチウムイオン電池(LiB)の価格面、品質面でのメリットは正直、魅力的だ。ただ、建機の電池は自動車の電池とは異なる知識やノウハウが必要になる。自動車向け電池と比べ建機向けは数が非常に少ない。中国の電池メーカーがこれをどう捉えるか。情報交換はしているが、本格交流には至っていない」

伊藤忠商事や日本産業パートナーズ(JIP)など新しい株主との連携は。
 「北米では販売金融会社を立ち上げた。次の問題は物流とみている。RORO船(貨物専用フェリー)はまだ調達難で運賃も高止まりが続いている。ここで伊藤忠のルート活用を考えている。JIPとは米州のレンタル事業拡大がテーマ。日本と欧州はこれまで自社で建機資産を持ち自力で売るスタイルだったが、米州は国土が広く相当の台数が必要になる。すべて自社でやるのではなく他社と組む方法を検討中で、伊藤忠やJIPの知見を活用する。最初にレンタル車で出し、5―6年経過して中古車で販売する際にも両社の知見を生かせる」

―燃料電池(FC)ショベルや水素エンジンショベルの開発は。
 「どちらも開発は緒に着いたばかりだ。FC車は欧州で代理店と一緒にテスト機を複数製作して試験を始めている。それを他の地域で売るかは別。水素は供給インフラの面で、まだハードルが高い」

高精度施工で差別化/コベルコ建機社長・山本明氏

―23年の建機の市場見通しは。
 「中国以外は堅調とみる。北米のリセッション(景気後退)は気がかりだが、足元では兆候や影響はまだ見られない。22年は日野自動車製エンジンの不正問題があったため、注文はあるのに供給が十分できなかった。現在はエンジン問題もめどがたち、徐々に回復している」

コベルコ建機社長・山本明氏

―中国需要が弱い中、成都、杭州の2工場のうち杭州工場を閉鎖し、年産能力を5000台強にほぼ半減させるスリム化計画を打ち出しました。
 「中国はモジュール部品の開発に強い。解体機や建機に装着するアタッチメントやバケットは力の入れ方や制御などに独特の技術が必要だが、短期間で優れた品を開発してくる。この能力を生かす。中国需要は今は減少状態だが潜在的には大市場で、残った工場の活用余地はあるとみている。製缶品はインドで生産し、モジュール品は中国で、などとクロスソーシングを活用する」

―米国の工場は竹内製作所に売却済みです。米国での売上高を増やすには日本からの輸出拡大と代理店の強化が決め手になります。
 「米国で当社が強いのは工場があった南部。ここをさらに強化するか、南部以外の地域を攻めるか、数字を見ながら判断して決める。日本の工場は生産性を上げることが必要。生産台数は2交代制などをフル活用すれば増やせるが、それだと経費も上がるので意味がない。生産ラインでの製品の流し方と開発体制をスピードアップすることが重要だ。溶接ロボットや組み立てロボット、検査ロボットの台数をもっと増やすと同時に、どこへ導入すれば最も効果的か検討する。23―25年度の中期経営計画に盛り込む予定で、できるものは23年度から先行着手したい」

―電動化の研究開発はどう進めますか。
 「19年の国際見本市『bauma』に1・7トン電動ショベルを出展した後も開発を続けている。リチウムイオン電池(LiB)で駆動できるのはせいぜい10トンまでとみている。環境対応の見地からミニショベルやマイクロショベルは今後、電動機が主流になるだろうが、コストの大半は電池で、ここは中国が優れている。将来的に価格競争の激しいミニショベルは、中国製が席巻してしまう可能性もある。価格競争では中国に勝てない。遠隔操縦や高精度施工、高耐久性といった中国製にはない長所による差別化が必要だ。電動モーターはミリメートル単位の細かい制御ができるので、高精度施工と相性は良い。これをどう生かすかだ」


【関連記事】 日立が絶対に売却しない子会社とは?
日刊工業新聞 2023年01月01日

編集部のおすすめ