過去最高のスタートアップ資金調達、インキュベイトファンド代表パートナーが見通すこれから
未上場のスタートアップ企業に対する投資減速が鮮明な米国とは対照的に、日本の資金調達環境が新たな局面を迎えている。2022年の国内スタートアップの資金調達額は過去最高の約9500億円に達する見通しで、株式発行による調達と銀行融資の側面を併せ持つ「ベンチャーデット」を含めるとさらに上振れしそうだ。機関投資家マネーの流入もダイナミックかつ安定的なファンド組成につながるとの期待もある。こうした傾向は今後も続くのか。インキュベイトファンド代表パートナーの村田祐介氏に聞いた。(編集委員・神崎明子)
―「冬の時代」の到来とされる米国に対し、日本のスタートアップ資金調達額は12月8日時点(ユーザベースINITIALまとめ)で8214億円。21年の8447億円を上回るのは確実とみられています。要因は。
「海外ベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PE)が日本のスタートアップに投資する、あるいは国内外の機関投資家が日本のVCに出資する動きが活発であることに加え『ベンチャーデット』の広がりも22年の特徴だ。けん引役は日本政策金融公庫や商工中金の資本性ローンだが、地銀も積極的姿勢に転じ、ここへきてメガバンクも動き始めた。数百億円規模を調達するスタートアップも増えており、金融機関がスタートアップに与信する流れは定着しつつある」
―再生可能エネルギー開発を手がける自然電力(福岡市中央区)がカナダの年金基金大手から資金調達したことは市場の注目を集めました。日本の機関投資家の動向にも変化がみられるのでしょうか。
「日本のVCにとって機関投資家からの資金調達は悲願だったが、ようやく実現しつつある。それも一時的な流れではなく、太い流れとして安定的にファンド組成を支える存在だ。我々VC側も機関投資家マネーの流入促進へ向け、パフォーマンスベンチマークを作成するなどの働きかけを強めてきたが、歩調を合わせるように脱炭素やエネルギー分野、あるいはディープテック領域を中心にスタートアップが(投資の)受け皿となってきた」
―日本では年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がVCファンド経由でスタートアップ投資に乗り出すことが明らかになりました。他の年金マネーの呼び水になりますか。
「企業年金基金の動きは活発になっており、積極的に国内VCに出資する流れは生まれつつある。加えて政府のスタートアップ育成5カ年計画では政府系資金を国内VCおよび国内投資に関心のある海外VCに出資していく方針も盛り込まれた。これを受け産業革新投資機構(JIC)が2000億円規模のファンド組成を公表した。23年は良い滑り出しになるのではないか」