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新幹線の安全向上、重大インシデント風化させないJR西日本の覚悟

新幹線の安全向上、重大インシデント風化させないJR西日本の覚悟

新幹線の安全を向上させるための訓練で、車両の床下を点検

JR西日本は新幹線の安全向上策を推進している。2017年に発生した車両台車の亀裂が見つかる重大インシデント(事象)対策として進めたハード整備やソフト対策の仕組み化が21年に完了。ハード活用とソフトの仕組みの定着に取り組んでいる。(大阪・市川哲寛)

台車枠の探傷検査では超音波探傷装置と台車枠反転装置の導入により、高精度な検査が可能になった。インシデント発生後に全ての台車枠を検査し、傷の疑いのあるエコー反応を示した台車枠は全て取り替えた。

地上から台車の温度を監視して温度の傾向から異常の兆候などを把握する温度検知装置は、JR東海から技術提供を受けて山陽新幹線の新大阪-博多間の5カ所に10台を設置、全ての車両形式の異常を検知できるようにした。車上で空気バネ圧力で異常を検知する装置は、インシデント発生車両と同じ台車構造の車両への設置を終え、台車構造が異なる車両への設置を進めている。

インシデントは異臭や異音などの異常を認めながらも運行を続けた点も問題になった。このため社員間のコミュニケーション改善を目指して、グループ通話アプリケーションや緊急情報共有電子テーブルなどデジタルツールを導入。運行を管理する指令員間や、指令員に運転士や車掌、車両保守要員なども含めた運行にかかわる社員間の情報共有を円滑化した。社員間で連携して列車を停止させ、車両点検した件数は大幅に増えており、安全意識は高まっている。

定着に向けては実践的な訓練を拡充している。乗務員が車両で使っている油脂類の焦げた臭いや実際に発生した車両の音を体感し、異変への感度を高めるための訓練を全乗務員に毎年行っている。

訓練用列車で指令員や乗務員、保守や工務系社員などの合同訓練では、車内販売員や警備員も実際に非常ブザーを押して列車を停止させ、車両と保守担当が車両の床下を点検する。列車を止める判断や指令員と現場社員のやりとりを検証する。

安全担当者と現場長にはヒューマンファクターを理解するための講義や事例研究も行っている。自らの職場に置き換えてリスクを考える取り組みを促している。

21年には重大インシデント事象を疑似体験できる設備で教育を始めた。受講した社員からは「当時の状況を鮮明に思い出す機会になった」「自分ならどうしたか、どうすべきかをあらためて考えた」などの感想が出ており、リスク対策の理解につながっている。

同社は重大インシデントを風化させずに、安全対策や教育などの見直しを必要に応じて図り、さらなる安全性向上に取り組む方針。

日刊工業新聞 2022年12月29日

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