革新炉・量子コンピューター・EV…政府・23年度予算案をまるっと紹介
政府はグリーントランスフォーメーション(GX)やデジタル変革(DX)、宇宙など科学技術への重点投資を盛り込んだ2023年度予算案を決定した。成長分野への大胆な投資でイノベーションを生み出し、脱炭素など社会課題を成長エンジンに転換する。ロシアによるウクライナへの侵攻の長期化などを背景に、世界経済は景気後退懸念が高まっている。日本経済の強靱(きょうじん)化を図り、持続的な成長の実現を目指す。
経産省 次世代革新炉で新規/環境省 中小のCO2削減に補助拡充
世界的な脱炭素化の潮流とエネルギー安全保障の重要性の高まる中で、政府が原子力の活用を打ち出した。経済産業省は23年度当初予算案で原子力関連の新規事業を盛り込んだ。高速炉実証炉開発事業に76億円、高温ガス炉実証炉開発事業に48億円を計上。原子力産業の人材や技術、産業基盤の維持・強化につなげ、米仏との協力で高速炉などの技術開発を推し進める。
再生可能エネルギーの大量導入に向けた次世代ネットワークの構築加速化事業に10億円、系統用蓄電池の導入や配電網を合理化する事業に40億円、それぞれ新規で計上。引き続き再生エネの主力電源化も進める。水素サプライチェーン(供給網)構築に向けた技術開発事業も新規で80億円を充てた。
電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などクリーンエネルギー自動車(CEV)導入促進補助金に200億円、充電・充てんインフラ導入促進補助金に100億円を計上した。
環境省はGX関連として中小企業の支援策を並べた。二酸化炭素(CO2)の排出削減計画に応じて補助を拡充する設備投資支援事業に36億円を計上した。22年度補正予算との合計で76億円を充て、中小企業の脱炭素化を後押しする。
さらに商工会議所などと連携し、地域ぐるみで中小企業を支援する新規事業に14億円を盛り込んだ。業界別では135億円を充てて、商用車の電動化を支援する事業を創設する。
ほかにも、民間の脱炭素事業を資金支援する官民ファンド「脱炭素化支援機構」関連は、財政投融資で22年度当初予算比2倍の400億円を計上。温暖化対策に積極的な「脱炭素先行地域」を集中支援する事業に同75%増の350億円を充てる。22年度補正予算との合計は400億円となり、事業2年目で増額した。
文科省 量子コンピューターと「富岳」融合 新技術に23億円
文部科学省は、量子コンピューターとスーパーコンピューター「富岳」を組み合わせて高度な計算を実行する基盤技術の開発に新規で23億円を計上した。両方のコンピューターが得意な分野を分担して計算することで、全体の計算能力を高める。経済安全保障の強化や地球規模の生態系予測など社会課題の解決に向けた幅広い分野で活用でき、研究DXの強化につながる。
宇宙航空分野の研究開発には1560億円を盛り込んだ。23年2月に打ち上げ予定の新型の大型基幹ロケット「H3」や固体燃料ロケット「イプシロンS」の開発や高度化を進め、宇宙輸送分野の国際競争力を高める。さらに米国主導の「アルテミス計画」に向けた研究開発として、新型補給機「HTV―X」や火星衛星探査計画「MMX」などのプロジェクトを加速させる。宇宙分野の国際競争が激化する中で、日本の技術力や信頼性などを生かして開発を進める。
国交省 運輸業界の脱炭素化支援
国土交通省は運輸業界の脱炭素化を積極的に支援する。航空分野では、植物油や廃食用油を原料とする「持続可能な航空燃料(SAF)」導入促進や空港における再生エネの拠点化などに22年度当初予算比16%増の21億円を計上。SAF導入に向けた環境整備、航空機の脱炭素化に貢献する新技術の実用化を進める。
港湾・海事分野では、脱炭素に配慮した港湾機能の高度化を進める「カーボンニュートラルポート」の形成など、同29%増の427億円を盛り込んだ。このほか、液化天然ガス(LNG)燃料船の普及促進や温室効果ガス排出量ゼロに向けた国際戦略の推進、洋上風力発電の導入を促す基地港湾の整備などを促進する。
また建設、運輸、海運・造船、宿泊・観光業での人材確保・育成や生産性向上に34億円を盛り込んだ。
総務省 量子暗号通信網に15億円
総務省はDX分野に力点を置く。量子関連では、グローバル量子暗号通信網の構築に向けた研究開発事業に15億円を計上。量子コンピューターの出現で、これまでの暗号の安全性の破綻が懸念されていることを踏まえ、国家間や国内重要機関間の機密情報のやりとりを安全に実行できるようにする。
新規で盛り込んだ、量子インターネット実現に向けた要素技術の研究開発事業には25億8000万円を充てる。将来の量子コンピューターの大規模化や量子暗号通信の高度化に向けて、量子状態を維持し、安定した長距離量子通信の実現につなげる。
第5世代通信(5G)の次の世代「ビヨンド5G」の技術戦略の推進には、22年度当初予算比1・5倍となる150億円を計上した。電波の有効利用に資する重点技術などの研究開発を支援していく。
厚労省 医療・介護でDX化推進
厚生労働省は、医療・介護分野でのDXを進めるため、総額19億円を盛り込んだ。中でも、国内の医療機関を標的としたランサムウエアによるサイバー攻撃が増えてきていることから、サイバーセキュリティー対策の調査事業として、1億円を盛り込んだ。専門家の派遣による感染原因の特定や対応の指示などの初動支援体制を強化する。併せて、従来のサイバーセキュリティー研修に加え、サイバー攻撃を想定した訓練拡充など、実用性のある研修を実施する。
電子カルテ情報の標準化の推進費として、5億3000万円を充てる。異なるカルテの医療機関同士でも医療情報が共有できるように、必要なカルテ情報を早期に標準化し、その情報を全国の医療機関や患者本人が安全に閲覧できる仕組みを構築する。
併せてこれらの情報を利活用する環境整備に取り組む。