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ISSでは「材料実験に取り組みたい」宇宙飛行士の大西氏

ISSでは「材料実験に取り組みたい」宇宙飛行士の大西氏

インタビューに応える大西卓哉宇宙飛行士

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大西卓哉宇宙飛行士が6月ごろに国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在するため出発する。ロシアの宇宙船「ソユーズ」に乗ってISSに移動し、約4カ月間、システムの保守や宇宙実験などのさまざまな任務をこなす。ISSに長期滞在する日本人宇宙飛行士は6人目。初の宇宙飛行の意気込みを聞いた。

 ―ソユーズでは副操縦士の役割を担います。民間旅客機のパイロットだった経験はどのように生きてくるのでしょうか。
 「計器を確認して状況を分析、判断するような適性は、パイロットと宇宙飛行士でほぼ同じ。さらに長期間のフライトでは集中する場面と力を抜いてもいいケースがあり、気持ちの面でメリハリをつける必要がある点も似ている」

 「民間パイロットはチームプレーが重要。旅客機では機長と副操縦士がペアを組んで仕事する。パートナーに対し、『作業しやすいか』『負荷をかけ過ぎていないか』などを気にかけながら仕事を進めなければならない。この点も宇宙で生かせると思う」

 ―どのような宇宙実験に興味がありますか。
 「大学時代に航空宇宙材料の実験をしていたこともあり、材料の宇宙実験に興味がある。特に、静電気の力で材料を浮かせてレーザーを照射し、溶けた材料の物性を調べる実験に取り組みたい。地球では重力があるため、対象となる材料と容器を離せず、純粋に材料の特性を調べることが難しい。宇宙での実験結果は、鋳造などの製造プロセス技術や新材料の開発につながるのではないか」

 ―宇宙での任務は我々の生活にどのような影響を与えますか。
 「ISSでは基礎研究の実験が多い。企業がそれらの研究に興味を持つことで、創薬や材料開発などに応用できるようになるだろう。またISSでの日本人の活躍を見た若い人たちが科学に興味を持てば科学に携わる人が増え、日本の科学技術の底上げにつながるかも知れない」

【記者の目】
ISSへの出発に向け最終調整を行っている大西宇宙飛行士。高度化した日本実験棟「きぼう」での活動のほか、国産物資補給船「こうのとり」によるバッテリーや食料の補給などのイベントがISSで計画されている。「何をやれと言われてもできるようにしている」。初めての宇宙飛行に向け、準備は万全のようだ。
(聞き手=冨井哲雄)
おおにし・たくや 98年(平10)東京大学工学部航空宇宙工学科卒、同年全日本空輸入社。09年JAXA入社、11年ISS搭乗宇宙飛行士に認定。東京都出身、40歳。
 
日刊工業新聞2016年2月4日 科学技術面
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
自身では初めての宇宙飛行となる大西飛行士。インタビューにもあるように、宇宙での実験成果は材料技術やプロセス技術など、私たちの地上でのモノづくりにも、多く生かされます。

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