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【連載】不撓不屈・カミキ編#04 切れない手袋、信頼も裏切らず

【連載】不撓不屈・カミキ編#04 切れない手袋、信頼も裏切らず

購入をした用地を前に。将来は工場増設も視野に入れると社長の江上壮輔

 堅調に業績を伸ばしてきたカミキ(福岡県水巻町)だが、社長の江上壮輔にも悩みはある。「すきま産業だけに売り上げを急激に伸ばすことができない」ことに加えて、低価格化の波が確実に浸透している。その代表例が軍手だ。安価な軍手は当初扱っていなかったが、顧客が取引先を減らしていく中で商品点数に加えざるを得なくなった。

 純国産の高付加価値手袋と異なる混紡軍手は中国から輸入している。防振手袋が1双(セット)5000円程度なのに対して、軍手は1ダース300円。1双当たりの価格差は200倍だ。利益はほとんど出ないがニーズがある以上扱う。今ではコンテナで1・5カ月ごとに1万1000ダースを輸入「北九州一の取扱量」と苦笑いする。安い製品は量を確保することで少しでも利益を生む工夫をしている。

 自社生産品を含めて工場は商品や材料があふれている。どうすれば効率化できるか考え始めていたところ朗報が飛び込んできた。隣接する農地の購入話が持ち込まれたのだ。生産の効率化、業容の拡大、従業員の福利厚生などもろもろを勘案して購入を決めた。

 用地は約2250平方メートル、総投資額は6000万円。ここに3月をめどに倉庫2棟を建設して製品在庫を集約、現本社工場は生産に特化する。また手狭になっている従業員の駐車場も移転・整備する。将来は工場増設も視野に入れている。

 創業者で父の卯吉から「お前はアイデアがない」とぼやかれていたという江上だが、父亡き後もコンスタントに製品を生み出している。近年人気なのが切創と突き刺の両方を防ぐ手袋だ。防弾チョッキに使われる特殊繊維や鎖を組み合わせることで実現した。歯車の切削や鉄板のバリ取りに威力を発揮する。また側面の鋼線を引き抜くと瞬時に外れる足カバー(脚半)も、危険物からの保護だけでなく熱傷も防ぐとヒット商品に育った。

 江上は6月に古希を迎える。父・卯吉が自分に社業を譲った年齢が近づいてきた。若いころから新日鉄住金やトヨタ自動車九州(福岡県宮若市)などに飛び込み、業容を広げてきた意欲もいまだ衰えていない。それでも次代へのバトンを意識し始めている。若手の積極採用や用地の確保はその布石だ。

 半世紀以上にわたって切れない手袋を作り続けた。その技はいまだ国内外の競合社からの突破を許していない。これからも江上は最上の製品を作り続ける。顧客からの信頼を“裏切らない”ためにも。
(敬称略、この項おわり。文=大神浩二)

※「不撓不屈」は幾度となく困難を乗り越え挑戦し続ける中堅・中小企業を取り上げます。
日刊工業新聞2016年2月5日 中小企業・地域経済面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
先代から「アイデアがない」といわれながらもヒットを飛ばす江上社長。引き継いできた発想力という資産を、どのように次世代に受け継ぐつもりなのか気になります。

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