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ドイツ・製造業革命のキーパーソンは名門アーヘン工科大学の教授

クロッケ氏への独占インタビュー「工作機械をもっと賢くしていく」
 ドイツが国策として進める「インダストリー4・0(I4・0、第4次製造業革命)」。モノのインターネット(IoT)など最新のITを使って工場を連携させ、製造業を高度化するのが目的だ。現地では多くの標準化や実証システムの開発プロジェクトが進められている。西部ノルトライン・ヴェストファーレン州アーヘンに位置するアーヘン工科大学は工学系大学の名門。工作機械研究所のフリッツ・クロッケ教授に聞いた。
 

 ―I4・0に関する日本の関心の高さをどう思いますか。
 「ドイツがやろうとしていることが日本の産業界の琴線に触れたのだと思う。I4・0は、ITで先行する米国への対抗策として始まった面がある。ドイツと日本は優れた工作機械を作っており、ITで先行する米国に対し似たようなポジションにある。良い機械に良い通信技術を組み合わせることで、さらにポジションを高めていける」

 ―I4・0の狙いはどこにあるのでしょうか。
 「工業は、大量生産から小ロット生産へと変わってきた。大量生産と同じコストで多様な製品を作ることが求められている。実現することは大きなチャレンジ。(段取り替えなどを)人手でやるわけにはいかないわけで、生産設備のフレキシビリティーを高め、もっと機械を賢くしていく必要がある」

 ―アーヘン工科大や、クロッケさんが所長を兼任するフラウンホーファー研究機構の生産技術研究所(IPT)では、I4・0にどう関わっていくのですか。
 「たくさんのプロジェクトが走っている。一つは『プロセンス』。工作機械の制御装置にはセンサーを通じてたくさんのデータが集まってくる。これを使ってできるだけエネルギーをムダにせず、生産性やフレキシビリティーを高めようという研究。そこで大事なのは、制御装置のデータをネット上のクラウドシステムに集めて処理すること。ほかにもロボットのインテグレーションなどいくつもテーマがある」

 ―本業の工作機械研究にも関わる重要な研究テーマですね。
 「その通り。現時点ではI4・0はまだ一つの言葉、枠組みにしか過ぎない。特に中堅・中小企業をサポートするという大きな目的については、まだまだ具体的な支援策にはなっていない。産業界が必要とするのはあくまで生産性であり効率であり、経済的な価値。それを実現できなければ、誰も我々の話を聞いてくれなくなる」

 ―I4・0の成功に向けて、何が重要になると思いますか。
 「まずは通信インフラの整備。高速通信回線が普及しないと達成できない。もう一つはセキュリティーだ。大きなデータを安全に送受信できることが不可欠だ」
 
 【記者の目/新潮流に乗れ】
 日本とドイツの工作機械について「品質、生産性とほとんど同じレベルにある」とするクロッケ教授。ただ、I4・0のもとで次世代システムの研究開発が進めば、日本は後れを取ってしまうかも知れない。工作機械がクラウドシステムとつながって賢くなるというのは実現できていない世界。日本の工作機械業界はこの新潮流にどう向き合っていくのか。(広島・清水信彦)
日刊工業新聞2015年04月20日 機械・ロボット・航空機面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
本ファシリテーターの清水のインタビュー。先週開催されたハノーバーメッセは「インダストリー4・0」一色だった。最近は日本からドイツへ関連企業を巡るツアーが実施され人気になっている。コンセプト先行のように映るが、ドイツでは産学官で実務的な話し合いも行われている。特に工作機械、FAの分野は、日本の強みでもあり、ドイツと連携していくのか踏み絵を踏まされる時期がくるだろう。

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