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「ローカル5G」社会に浸透へ、大学発スタートアップの挑戦

大学・国研発スタートアップ ディープテックで社会革新・#01 フレアシステムズ
「ローカル5G」社会に浸透へ、大学発スタートアップの挑戦

同社はシステムインテグレーターとの産学連携で生まれた

ディープテック(大規模研究開発型)のスタートアップ(SU)は成長に時間がかかり難しい面はあるが近年、日本でも成功例が出始めている。革新的な技術が核になるだけに、大学・国研発SUへの期待は大きい。上場に限らずM&A(合併・買収)を目指したり、社会貢献を重視したり多様化も進む。“ベンチャー”の呼称がSUに置き換わりつつある変化の中で、大学・国研発の志と技術・人からなるSUを取り上げる。

大学発SUは基本特許が重要なため、産学共同研究が土台ということはあまりない。さらに企業側はモノづくりのメーカーが普通だ。しかし高速大容量の第5世代通信(5G)など次世代通信システムを手がけるFLARE SYSTEMS(フレアシステムズ、東京都文京区、中川貴之社長)は、違う。

企業側はNECネッツエスアイ、つまりネットワークシステムを構築する通信系システムインテグレーターだ。東京大学大学院工学系研究科の中尾彰宏教授と約10年、ネットワークの多様な共同研究をしてきた。そして無線通信の担い手が大手キャリア限定から、一般企業に開放されるローカル5Gのタイミングがチャンスになった。2021年7月にフレアシステムズが設立された。

ローカル5Gは自治体や企業などのニーズに合わせ、個別の建物や敷地の中でのみ構築するものだ。その場に設定する基地局は通常、専用機が必要だ。コア別のシステム機器を置くことが多い。

対して同社の製品は、制御のソフトウエアをパソコンやサーバーに搭載した“コア一体型のソフトウエア基地局”だ。コンパクトで省エネ、そして移動が可能だ。「人が少なく、キャリアのネットワークが届かないへき地などが、我々のマーケットチャンスだ」と中川社長は説明する。

例えば山中の伐採作業車両を遠隔操作したり、冬場の富士山のカメラ映像で危険を監視したり。多様な電波があふれるイベント会場で、混雑検知や作業ロボットの制御を、リアルタイムで安全に行うケースもある。これらは総務省の実証試験で実施しており、手応えを得ている。

社会への浸透に向けた課題は、魅力をより多くの人に体感してもらうことと、低価格化だ。社会インフラに関わる製品・サービスだけに派手ではないが、「大学の研究開発成果と商用利用の溝を埋めるのが、当社の役割だ」(多田裕司管理本部長)。大学発SUとして社会貢献の意識を持ちながら、歩を進めようとしている。

日刊工業新聞 2022年11月17日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
大学・国研発スタートアップの新連載をスタートした。トップバッターは最先端の通信技術かつ、産学連携型という新しい形のモデルだ。私自身、システム担当の同世代の知人が、技術経営(MOT)系の博士学生仲間などに多い。そのため同社の中川社長・多田管理本部長(両者ともNECから出向いている)のような活躍は感慨深い。なお連載の最初の5回ほどは私が担当するが、その後は支社・支局を交えた多様な記者が書いていく。多様なスタートアップが出てくるので愛読してもらいたい。

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