日本板硝子執行役員が見通すガラスが生み出す新しい価値
日本板硝子執行役員研究開発部日本統括部長・斉藤靖弘氏インタビュー
―2022年は国連が定める「国際ガラス年」で、ガラスがあらためて見直されています。
「中国をはじめとする新興国の参入により、ガラス製品の汎用化や競争の激化が一層進む。こうした中で競争力を維持し、成長分野へポートフォリオ転換するためには、高付加価値ガラスの開発へのシフトが必要だ。ガラスにはまだ発展の余地があり、今後も新しい価値を生み出せる」
―研究開発はどの分野に注力しますか。
「快適空間の創造、地球環境の保護、情報通信の3分野に重点を置く。例えば、真空ガラスなどの高機能な遮熱・断熱ガラスや調光ガラス、拡張現実(AR)対応の自動車向けヘッドアップディスプレー用ガラスなどだ。透明導電膜付きガラスや第5世代通信(5G)向けの低誘電率材料などでもガラスの活躍が増えている」
―開発リソースをどう配分しますか。
「英国、日本、米国の3拠点がそれぞれ強みを生かす。英国では水素燃焼などカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に必要な開発を進め、オンライン化学気相成長法(CVD)に強い米国は太陽電池向けなどに展開する。日本は湿式コーティングのゾルゲル法に強く、紫外線カットや反射防止、防曇など高機能品を開発している」
―設備の増強計画などはありますか。
「日本の技術研究所(兵庫県伊丹市)では現在、新たな実験棟を建設中だ。ゾルゲル法に関する実ラインに近い試作機を導入し、顧客に新製品をより迅速に理解してもらうことで量産に向けて加速する。また各製造拠点に駐在を置くことで新製品の迅速な立ち上げを可能にしている」
―デジタル変革(DX)の進捗(しんちょく)は。
「人工知能(AI)を用いた生産プロセスの効率化や、材料分野ではマテリアルズインフォマティクス(MI)の活用に力を入れている。ガラス組成の開発はこれまで研究者の勘や経験に基づいていたが、今後はデジタル技術により必要な実験数を減らし、開発をスピードアップする」
―オープンイノベーションの考え方は。
「急速に変化する市場ニーズに応えるため、外部パートナーとの連携は必須だ。ENEOSが出資し、当社が参画する米ユビキタスエナジーとの透明太陽電池の開発は主な取り組みの一つ。100年に一度の変革期とされる自動車関連では今後、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応など積極的に連携していく」
*取材はオンラインで実施。写真は日本板硝子提供
【記者の目/業界けん引、新技術・行動力を】
ガラスは製造時に多くの二酸化炭素(CO2)を排出するが、日本板硝子は水素やバイオ燃料を使った製造実験を行うなど環境対応で先行する。最近、CO2排出量を30年までに18年比30%減とする目標に引き上げた。脱炭素に向け、ガラス専業メーカーには業界を引っ張っていく新たな技術と行動力が求められる。(藤木信穂)