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巨額赤字の楽天、「プラチナバンド」獲得でモバイル契約者の増加につなげられるか

楽天モバイルは電波がつながりやすい周波数帯「プラチナバンド」の獲得に向け大きく前進した。総務省はこのほど、プラチナバンドの再割り当てに関する報告書案を公表。プラチナバンドを保有するNTTドコモなど携帯通信大手3社の意見が退けられ、楽天モバイルに有利な条件が設定された。親会社の楽天グループは、携帯基地局の設備投資などで巨額の赤字を抱える。プラチナバンドの獲得で通信品質を改善し、契約者数の増加につなげられるか。(張谷京子)

プラチナバンドは700メガ―900メガヘルツ帯(メガは100万)の周波数帯。地下鉄やビルの建物内でも電波が届きやすい特徴を持つ。ドコモ、KDDIソフトバンクの3社は既にプラチナバンドを保有する一方で、移動体通信事業者(MNO)として後発の楽天モバイルは持っていなかった。同社は以前からプラチナバンドの再割り当てを求めてきた。

総務省が8月に開いた有識者会議「携帯電話用周波数の再割当てに係る円滑な移行に関するタスクフォース(TF)」の会合では、既存3社からプラチナバンドの5メガヘルツ幅をそれぞれ二つずつ譲ってもらい、1年以内にサービスを開始したいと主張。再割り当てする際に発生する費用は既存3社が負担するよう要求した。

当然、既存3社は反発する。同会合で3社はおおむね、プラチナバンドを再割り当てする場合の移行期間には10年かかると主張。移行に伴う工事費用は1000億円前後必要だと見積もり、楽天モバイルが負担すべきだとの意見を示した。

今月開いた決算会見の場でも、各社首脳は不満をもらした。KDDIの高橋誠社長は、楽天モバイルの主張に対して「言い過ぎなところがある。1年内以内に利用を開始するのはさすがに不可能」と指摘。ソフトバンクの宮川潤一社長は「ほしい気持ちはわかる」としつつ「我々の使っている周波数を渡すとなると、今使っているお客さんをどうするか。キャリア(通信事業者)同士、確認し合わないといけないことはたくさんある」と話した。

楽天モバイルと既存3社の膠着(こうちゃく)状態が続いた議論の潮目を変えたのが、総務省が8日に公表した報告書案だ。10月1日に施行された改正電波法で、電波の利用状況などを審査して別の事業者に周波数を再割り当てできる制度の創設が盛り込まれたことを踏まえて、同TFが報告書案を公表した。報告書案は、標準的な移行期間は5年で、移行に伴う費用は原則として既存事業者が負担することが適当だとした。

これについて楽天モバイルは「新規参入事業者の主張が費用負担や終了促進措置の観点でおおむね反映された。プラチナバンドを再割り当てしてもらった場合には、柔軟かつコストを抑えた効率的な基地局設置を行い、サービス提供していく」とコメントを発表。

今後プラチナバンドを再割り当てするかどうかの判断は、総務省の電波監理審議会が行う。ただ、後発事業者は既存事業者を上回る開設計画を設定しやすく、同社が有利になると言われている。

楽天グループは、携帯通信事業で基地局の建設費用が膨らみ、赤字に苦しむ。楽天モバイルは、7月に月額0円の料金プランを廃止。この影響により、足元ではARPU(利用者1人当たりの平均収入)が上昇するものの、同プランの廃止で契約者数の流出が続いているのも事実だ。

他社と比べて“つながりやすさ”の面で後塵(こうじん)を拝してきた楽天モバイル。通信品質を改善して契約者の減少を食い止められるか。プラチナバンドの獲得がカギを握りそうだ。

日刊工業新聞 2022年11月21日

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