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魚と野菜を育て地域経済を潤す循環型農法、アクアポニックス設備が大船渡で始動

魚と野菜を育て地域経済を潤す循環型農法、アクアポニックス設備が大船渡で始動

テツゲンメタウォーターアクアアグリが運営する「アクアポニックスパークおおふなと(岩手県大船渡市)」

魚と野菜を同時に育てる循環型農業「アクアポニックス」が岩手県大船渡市で始まった。テツゲン、メタウォーター、プラントフォームの3社が連携し、環境への影響を最小に抑えて地域経済を潤す新しいビジネスモデルとしてアクアポニックスを展開する。事業は芽が出た段階だが、地元からも「地域活性化」という収穫への期待が高まっている。

農薬や化学肥料、廃水がゼロの新たな農業方法

地域の下水処理を担う「大船渡浄化センター」の敷地に立つ農業施設が、「アクアポニックスパークおおふなと」だ。施設内に入ると薄暗い空間があり、水の音がする。円形の水槽をのぞくと魚の姿を確認できる。チョウザメの群れだ。

奥へ進むと明るい空間が広がる。一面に水耕栽培の設備があり、大人の膝の高さほどにリーフレタスなどが並ぶ。

アクアポニックスは魚の排せつ物を野菜の生育に利用する新しい農法。「アクアポニックスパークおおふなと」も水槽と水耕栽培設備の間を水が循環しており、チョウザメの排せつ物や食べ残したエサをバクテリアに分解させてレタスの栄養素にする。レタスが栄養素を取り込むと水は浄化され、水槽に戻してチョウザメの飼育に利用する。農薬や化学肥料を使わない有機栽培であり、廃水も出ない。蒸発した分の水を足すだけなので水資源の使用量も少ない。

チョウザメ2000匹を飼育する水槽

“SDGsの1丁目1番地”、下水処理場の有効活用にも

稼働した施設は、アクアポニックとして国内最大となる2000平方メートル。チョウザメは最大2000匹を飼育できる。卵のキャビアだけでなく、身も高付加価値な食材となる。野菜はリーフレタスのほか5種を栽培する。苗から1カ月で成長し、1日1500株、月4万株を出荷可能だ。土耕よりも生育が2倍速くて生産性が高い。天候不順の影響を受けずに安定出荷ができるのも強み。常に品質の良い野菜を仕入れられるので飲食店にも重宝される。

「これこそ、SDGs(持続可能な開発目標)の1丁目1番地と思った」。メタウォーターの山口賢二社長はアクアポニックスを知った瞬間、思わず膝を打った。教えてくれたのが新潟県長岡市でアクアポニックス事業を展開するプラントフォームの山本祐二代表取締役CEOだった。

山口社長は地域経済への貢献に加え、下水処理場の土地の有効活用にもなると確信した。全国には未利用地を抱える下水処理場が少なくない。アクアポニックスは各地の自治体・事業体に未利用地の活用策として提案できる。

ちょうど大船渡市から、地域活性化に貢献する提案をしてほしいと言われていた。山口社長は「この思いに背中を押され、社内をまとめた」と振り返る。大船渡浄化センターの運営・維持管理業務をともに受託しているテツゲンにアクアポニックスの共同事業を相談すると、快諾を得られた。

地域に多くの価値を提供する「アクアポニックスパークおおふなと」の運営は、新会社「テツゲンメタウォーターアクアアグリ」が担う。資本金は1億円でテツゲンが60%、メタウォーターが37%、プラントフォームが3%を出資した。新会社の株屋進社長は「大船渡市から東北へ、そして全国へ商品を届ける」と抱負を語る。また新会社は地元で10人程度雇用する予定だ。

無農薬・無肥料で天候に左右されずにレタスを育てる水耕栽培施設

大きな成功へ、直感が実感に

9月29日に開いたオープンセレモニーでも地元からも歓迎の声が上がった。大船渡市の戸田公明市長が「地域経済活性化に寄与すると期待している」と述べると、市議会の三浦隆議長も「他の自治体からの視察があり、関心の高さが見受けられる」と紹介した。また、大船渡商工会議所の米谷春夫会頭も「まさにイノベーション。大船渡に良い影響を与える」と喜んだ。

テツゲンの佐藤社長は「SDGsにもつながるこれからの事業であると信じている。成長を多いに期待している」と語ると、メタウォーターの山口社長は「SDGs視点でももちろん、社会課題の解決にも貢献する事業だ。アクアポニックスを知った時の“うまくいく”という直感が実感となるように、今後の発展を支えていきたい」と決意を語った。

アクアポニックスは環境負荷を抑えながら地域経済に貢献し、下水処理場の未利用地を有効活用できる。いくつも課題を解決し、たくさんの価値を生みだす次世代型農法だ。大船渡から日本各地へ広がり、大きな成功になる予感にあふれる。

11月中旬からレタス類など野菜の出荷も始まり、市内スーパーや道の駅で販売されている

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