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岩波書店、講談社、光文社なども参画…早慶タッグが和書の電子化に挑む

早稲田大学慶応義塾大学の図書館は、和書の電子化プロジェクトを産学連携で始めた。紀伊國屋書店(東京都目黒区、高井昌史会長兼社長)をパートナーに、岩波書店(同千代田区、坂本政謙社長)など計五つの出版社が利用実験に参加。10月から1年半の期間限定で約1200点のコンテンツ提供を受ける。ユーザー利便性と出版社ビジネスを両立する新たな購読モデル構築を図る。

早大図書館と慶大メディアセンター(図書館)は2019年に日本初の図書館システム共同運用を開始。21年に早慶和書電子化推進コンソーシアムを設立した。22年4月に学術和書電子図書館サービス「KinoDen」を提供する紀伊國屋書店がパートナーとなって調整してきた。今回は他に講談社(同文京区、野間省伸社長)、光文社(同、武田真士男社長)、裳華房(東京都千代田区、吉野和浩社長)、日本評論社(同豊島区、串崎浩社長)が参加する。

新型コロナウイルス感染症の拡大で、研究者や学生の電子書籍ニーズが急伸した。しかし和書は洋書に比べ、電子書籍化が大幅に遅れている。また個人限定のケースも多い。今回の約1200点のうち半数が、個人向けのみで図書館向けに提供されていなかった。

国内でも有数の蔵書数・利用者数の両大学が同じシステムを利用するため、利用傾向の把握・分析、利用者意見のフィードバックは出版社にとって魅力がある。利用実績に基づき永久ライセンス付与で購入する「EBA」や、同時アクセス数無制限など、多様な購読モデルの確立を図る。

今回、図書館向けに初めて電子書籍の提供を行う出版社も含まれる。全国の大学図書館の注目を集めそうだ。

日刊工業新聞 2022年10月27日
山本佳世子
山本佳世子 Yamamoto Kayoko 編集局科学技術部 論説委員兼編集委員
図書館の書籍やジャーナルの様々な課題は、文献引用を記す英語論文発表が重視される理系分野が中心で、理系が強い国立大学が熱心に議論を展開している。対して相対的に書籍や紀要などが重要な文系は、日本語ものが多く、文系比率の高い私立大学がリーダーにふさわしいだろう。そのため早くから早慶がタッグをくんでいることに、以前から注目していた。今回はかなりの数の電子化の取り組みだ。格調高い岩波書店の一方、雑誌や小説を得意とする光文社など、特色の異なる出版社5社の相乗りに関心を持った。こんな多様な賛同者を集められるのも、早慶タッグのなせる技かもしれない。

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