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台風のエネルギーで発電する、横浜国大の挑戦の現在地

台風のエネルギーで発電する、横浜国大の挑戦の現在地

メカニズム解明が進んだことで、台風の効果判定も可能となった(台風のイメージ=TRC提供)

「台風の脅威を恵みに」―。台風を制御し、さらには台風の持つ膨大なエネルギーを利用して発電するという「タイフーンショット計画」が横浜国立大学台風科学技術研究センター(TRC)を中心に動き始めている。台風制御については、政府の大型支援事業「ムーンショット型研究開発事業」に採択され、2050年代の社会実装を目指す。観測技術や気象モデル、シミュレーションなどの進化が、人類の夢ともされた気象制御をついにかなえようとしている。(曽谷絵里子)

地球温暖化の進行でさらなる激甚化や増加が懸念される風水害。世界気象機関によると、全世界の気象災害は過去50年で約5倍に増え、1970―2019年の経済損失額は3兆6400億ドル、死者は実に200万人超と推定されている。

特に台風は日本にとって身近な存在だ。ただ、台風のメカニズムも長く不明で、制御効果の検証もできないため、台風制御研究が進められることはなかった。だが、メカニズム解明が進み、シミュレーション精度なども上がった今、効果判定も可能となった。

航空機で台風の目付近に氷を散布して冷やす、海水表面温度を下げるなど制御手法はいくつか提案されており、効果を示すシミュレーション結果もすでに得られている。

台風発電船の基本原理(TRC提供)

例えば、筆保(ふでやす)弘徳TRCセンター長らのシミュレーションでは、千葉県房総半島などに大きな被害をもたらした19年の台風15号の場合、氷をまくことにより、最大風速を秒速約3メートル低下させ、建物被害を約30%減らせると分かった。

現在、複数のシミュレーションを進め、どの手法が効率的か、氷などの散布量といった詳細を分析中だ。また、無人航空機の開発や生態系などへの影響評価も始まっている。

ただ、実現の大きなハードルとなるのは、こうした技術面より倫理的、法的な側面だ。周辺国との合意形成も欠かせない。社会科学や法学などの研究チームを立ち上げ、検討を進めている。

さらに大きな期待がかかるのが台風による発電だ。台風制御に比べ、クリアすべき倫理的な問題などが少なく、「実現はより早い可能性がある」(同)。

台風発電は、長崎大学などが進める海流発電技術を応用し、船舶に取り付けた海中スクリューを回して発電する。海中に固定すると維持管理や蓄電、送電が難しいが、船舶に搭載すれば船内に蓄電し、そのまま運べる。台風で停電した被災地に運ぶこともできる。

台風を追走すれば、3―5日間ずっと発電し続けられるなどメリットは多い。100隻あれば、年間の国内全電力消費の3・6%をまかなうことができ、「台風発電船の大規模導入により、台風は日本の再エネ電源の一つのオプションになりうる」(同)。

台風発電は、災害をもたらすものからエネルギーを取り出し利用する、世界でも初めての全く新しいコンセプトの取り組みだ。筆保センター長は、「日本発のプロダクトとして出したい」と企業との連携に力を入れる。

日刊工業新聞 2022年10月17日

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