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「高浜原発」臨海へ。再稼働への道筋つくる

メンテナンスなどのビジネスが回り始める
 関西電力は29日に高浜原子力発電所3号機(福井県高浜町)を再稼働させた。関電の原発が動くのは2013年9月以来、約2年4カ月ぶり。厳格化した原子力施設の安全規制「新規制基準」運用下では九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)に続く3基目の稼働となる。

 原子炉起動から半日程度で臨界に達し、来週前半にも発送電を開始する見通し。1カ月後には営業運転へと移行する。高浜3号機では、新規制基準導入後初めてウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電を行う。

 関電は再稼働で火力燃料費抑制が実現できるとして、今春にも電気料金の引き下げで需要家に還元する方針を示している。また関電は福井県若狭湾沿岸に計9基の“再稼働待ち”原発を抱える。高浜3号機に続く同4号機の再稼働工程は、約1カ月遅れで進み、31日にも原子炉への核燃料装荷に取りかかる予定だ。

メーカーも歓迎


 2015年12月25日朝、関電の八木誠社長は高浜原発を訪れ「安全を最優先に一歩ずつ慎重に進めてほしい」と述べ、この日始まる3号機への核燃料装荷に携わる作業者らを激励した。休みなく作業は進められ、今日の原子炉起動にこぎつけた。関電関係者は固唾(かたず)をのんで原子炉起動から臨界、発電へと進む再稼働を見守る。それはメーカーも同じ。三菱電機の柵山正樹社長は「再稼働するとメンテナンスなどのビジネスが回り始める」と見据える。

 高浜原発をはじめとする関電の原発9基はすべて三菱重工業・三菱電機グループが得意とする加圧水型軽水炉(PWR)だ。原発の安全を支えるには、技術の継承も欠かせない。あるべき仕事がない状態が続いたが「稼働を止めている間も、原子力関係の人材はまったく減らしていない」(柵山社長)と備えてきた。

月60億円の収支改善


 経済界も高浜3号機の再稼働を待ち望んでいた。経団連の榊原定征会長は26日、大阪市内の会見で「(再稼働を)歓迎したい」と述べた。関西の経済成長の阻害要因の一つだった電気料金が下がると指摘し、国のエネルギー安定供給や電源経済性、環境配慮の側面も強調した。「安全基準を守って、うまく再稼働してほしい」(榊原会長)とエールを送るとともに、再稼働を待つ他の原発が後に続くことを期待した。

 電気料金引き下げは関西の多くの事業者が心待ちにする。関電の香川次朗副社長は「原子力の本格運転を確認してから」との前提で今春「できるだけ早いタイミングで値下げする」と明言する。高浜1基分の稼働で月60億円の収支改善効果が見込めるという。燃料市況は差し置いて3、4号機の稼働で年1440億円の差益が生じる計算だ。これが値下げの原資になる。

 石炭火力の少ない関電にとって、電力安定供給の基盤となる電源の復帰は競争力強化に大きな効果を持つ。繰り延べてきた火力発電所のメンテナンスも正常化できる。原発再稼働の本格化はこれからだが、電力の安定供給という使命を背負う関電も、これで一息つけそうだ。
日刊工業新聞2016年1月29日1面記事を一部修正
永里善彦
永里善彦 Nagasato Yoshihiko
29日に再稼働した関電の高浜原発3号機は、九電の川内原発に続き2カ所目となる。更に高浜原発4号機が1か月遅れで再稼働する予定で、今年4月からの電力の小売り自由化に備えて、関電は運転コストの安い原発の再稼働を機に電気料金を引き下げ、競争力を高める。なお高浜3号機は、新規制基準導入後初めてウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電を行う。今回の再稼働は、今後、規制委の審査に合格した原発が続々と再稼働する道筋をつくったと言える。

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