コロナで脚光「医療コンテナ」、普及への現在地
検査設備を搭載し移動可能な「医療コンテナ」の活用に注目が集まる。医療設備としてこれまで主に災害医療を想定した使用について検討が行われてきたが、コロナ禍での新たな医療供給や地方における活用など、構想が広がる。医療機関での検査機器普及率が高い日本において、緊急時の備えという位置付けだけではなく、平時に効率的に医療提供する手段として運用できるかが、普及のカギとなりそうだ。(安川結野)
被災地へ移動可能、検査設備など搭載
医療コンテナとは、医療機器や手術設備などを搭載し医療施設の機能を持ったコンテナだ。医療コンテナ向けにコンピューター断層撮影装置(CT)を提供するキヤノンメディカルシステムズ(栃木県大田原市、滝口登志夫社長)の平柳則之部長は「コンテナ内には用途に合わせて検査や診察、手術設備などを搭載できる。移動できる医療機関として、注目されている」と話す。世界規格に準じたコンテナの内部を医療設備として活用しているため、多様なコンテナ車や船舶で被災地などへの運搬が可能だ。
キヤノンメディカルシステムズは、サンセイ(横浜市都筑区)と医療コンテナを展開する。サンセイの「メディカルコンテナ・キューブ」に、キヤノンメディカルシステムズのCT「アクイリオン・ライトニング80列マルチスライスCT」を搭載したもので、2021年に発売した。
通常の医療と同等の性能実現
コンテナでは通常の医療と同等の検査が可能だ。またコンテナ内部は抗菌加工したガラスウォールを採用しており、清浄性を維持しやすい設計となっている。さらに内部の空気を排出時に焼却処理するハイパーフィルターを用いた換気機能を備え、コンテナ内外の感染拡大を防ぐことができる。
これまで政府などは医療コンテナについて、災害発生時など緊急事態における医療供給手段としての活用を想定し、設置の検討を進めてきた。従来、災害現場ではテントを設置して医療を提供することが多いが、設置に時間がかかり、また天候など周囲の環境の影響を受けやすい。一方医療コンテナは気密性や耐久性に優れ、テントと比較して施設内を清潔に保つことも容易だ。被災地に持ち込むことが難しい大型の医療機器も搬入することができ、災害時でも高い水準の検査が可能となる。
一方で、災害時のみの用途では、医療機関への導入は進まない。日本は世界的に見ても検査機器の普及率が高い。厚生労働省によると、17年時点の病院でのCT普及率は73・4%と高い水準にある。また災害時は自衛隊や日本赤十字病院が中心となって医療供給を行うことから、平時の医療において検査体制が整っている一般の医療機関は、医療コンテナの導入を検討する動機に乏しかった。
地方での共同利用など構想
こうした状況に変化をもたらしたのが、新型コロナウイルス感染症だ。流行時における医療提供を支える手段として医療コンテナへの関心が高まった。医療コンテナを医療機関の駐車場に設置し、感染者や感染の疑いがある患者を隔離して検査することができる。医療のキャパシティー(受け入れ能力)を上げる効果に加え、病院内の患者や医療従事者を守ることが可能だ。
キヤノンメディカルシステムズのCTを搭載した医療コンテナの価格は、機種や機能によって変動するが、フルスペックモデルでおおよそ1億2000万円。新型コロナの流行の波によって、重症患者の受け入れが急増する中核医療機関での導入検討が広がりつつあり、国内では新型コロナ感染症への医療体制として、相模原協同病院と山梨大学医学部付属病院が導入した。
キヤノンメディカルシステムズの平柳部長は「コンテナに入る大きさの設備であれば、医療コンテナとして展開は可能。移動型のニーズがあれば、磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などにも広げたい」と説明し、医療機器の新たな市場として期待する。
コロナ禍では検査需要が増えてCT導入も進んだ。しかし長期的には人口減を見据え、CTをはじめ医療機器の台数は増やすよりも、地域で共同利用などを進めるべきという見方がある。国内の画像診断機器の販売台数が頭打ちとなる中、検査機器の効率的な使用を実現するものとして、可搬性に優れる医療コンテナのニーズが生まれそうだ。
ただ、現場の医師からは「現時点では、医療コンテナを稼働させなければ検査へのアクセスが極端に悪いという状況ではない」という意見もあがる。地域において、可搬性を生かした円滑な共同利用のスキームを確立するなど、平時における有効な活用方法をいかに見いだすかが、普及のカギとなりそうだ。