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鉄鋼大手の今期業績、さらなる下方修正も。悪材料重なる

原油安、円高、米利上げ・・
鉄鋼大手の今期業績、さらなる下方修正も。悪材料重なる

業績改善に向けた兆候がなかなか現れない(JFE東日本製鉄所千葉地区)

 鉄鋼大手の業績に依然、改善の兆しが見えてこない。ここに来ての一層の原油安で油井管などに使うエネルギー向け高級鋼の回復が遅れそうな上、鉄鉱石や石炭など原料価格の下落も鋼材のひも付き価格の下押し圧力になる。最近の円高傾向も輸出には向かい風だ。最悪、2016年3月期連結決算予想のさらなる下方修正にも迫られかねない。

 日本鉄鋼連盟の柿木厚司会長(JFEスチール社長)は「ここにきて原油安が株安や資源安に連鎖している。今の原油安は鉄鋼業に対してマイナスになっている」と渋い表情を浮かべる。原油安になれば、非産油国では自動車販売など消費活動が刺激され、鋼材需要へプラス効果も見込めたが、1バレル=30ドルを割り込む水準は資源国のみならず、新興国にも悪影響が波及。これに米国の利上げが追い打ちをかける。

 シームレス(継ぎ目なし)鋼管など日本勢が得意とする高級鋼管の回復も遠のく。JFEの主力製造拠点である知多製造所(愛知県半田市)所長の斎数正晴専務執行役員は「原油安で15年度の生産量は30%減。リーマン・ショックの時より悪い」と嘆く。最大手の新日鉄住金も今期の出荷量は同じく前期比30%減を見込んでいる。

 鉄鋼原料価格も低迷が続く。指標となる中国の鉄鉱石の輸入価格は昨年暮れにようやく下げ止まったものの、1トン=40ドル前後で底に張り付いたまま。2月中にも決まると見られる自動車メーカーなどとの15年度下期(15年10月―16年3月)ひも付き価格交渉でも、原料や燃油安による操業・輸送コストの負担減などが大きく影響しそうだ。

シナリオ崩れる


 さらに為替も1ドル=110円台に突入。円高は原料価格のさらなる下押し要因になると同時に、輸出競争力を引き下げる。「今は輸出市場でマージン(利幅)を取れるだけの量に生産を抑えている。市況が上がってくれば各社の生産も戻ってくるだろう」(柿木鉄連会長)というシナリオも崩れかねない。業績予想では新日鉄住金、JFE、神戸製鋼所の大手3社とも、下期の為替レートは1ドル=120円の想定だ。

 鉄連では1―3月期の普通鋼鋼材の総出荷量を1807万トンと予測。前年同期比4・1%減、15年10―12月期比でも0・6%減を見込む。これでも中国の状況によっては「輸出は下振れするリスクをはらむ」(同)だけに、各社業績の下振れリスクも決して小さくない。
日刊工業新聞2016年1月29日 素材面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
世界的な鉄余りで、世界の鉄鋼業が業績不振に陥る中、日本勢は健闘しているとも言える。利益を確保できる高級鋼に強みを持ち、直接的に価格競争に巻き込まれていないのが理由だ。ただ北米の自動車販売などを除いて、先行きに明るい指標が乏しいのは気になるところだ。また現在大詰めを迎えている今期下期の価格交渉の行方がどうなるかで、雰囲気も変わってくるだろう。

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