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工場国内回帰するキヤノン、御手洗会長が挙げた課題

キヤノンは、中国や東南アジアでの生産体制を見直す方針を明らかにした。昨今の地政学リスクや為替動向を踏まえたもので、主要工場の国内回帰を推進する。26日発表した2022年12月期連結業績予想(米国会計基準)は売上高と営業利益を上方修正した。円安進行や部材不足の緩和による製品供給量拡大で足元の業績は堅調に推移するが、先行き不透明な世界情勢に対して先手を打つ。

「一番問題なのは、地政学的な生産拠点の見直し」―。26日の決算会見でキヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO)は、今後の課題に生産体制の見直しを挙げた。「政治的、地政学的な緊張は高まる見通し」と語り、中国や東南アジアにおける工場のあり方について根本的な見直しを「着々と進めている」と説明した。

生産の合理化やロボット化でコストを下げた上で、主要工場を国内回帰させる方針。また進出国よりも安全な国への工場移設の検討にも言及した。海外での賃金上昇も理由の一つとし、為替変動にも対応しやすいよう「海外と日本でバランスを取れる生産計画を進めている」と述べた。

22年12月期連結業績予想は、売上高を従来予想比100億円増の4兆900億円に、営業利益を同90億円増の3850億円に上方修正した。為替の円安に加え、部材不足緩和によるオフィス複合機やミラーレスカメラなどの供給量拡大、製品販売価格への転嫁などが寄与する。

御手洗会長は「重要部材は入手しづらいなど、生産体制が100%改善したわけではないが、(部品や物流費の価格上昇を踏まえた)販売価格への転嫁が80%ほど進んだ」と手応えを示す。

一方で懸念もある。プリンティング事業はオフィス複合機が堅調だが、レーザープリンターやインクジェットプリンターは足元で在宅需要の減少が顕在化している。同事業の22年12月期見通しは売上高・営業利益ともに下方修正した。

中長期ではペーパーレス化の潮流に伴う複合機市場の縮小や、カメラ市場の成熟化がマイナス要因になる。生産体制の最適化などでリスクへの対応力を高めるとともに、医療機器や監視カメラといった成長性の高い事業への転換をどれだけ進めていけるかが問われる。

日刊工業新聞 2022年10月27日

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