来年4月解禁の「デジタル給与」普及するか、残る不透明さとリスク
スマートフォンの決済アプリの口座などに賃金を支払う「デジタル給与」が2023年4月に解禁される見通しとなった。厚生労働省は22年度中の改正を目指す。利便性向上が見込める半面、企業の事務負担や安全性など課題もあり、普及するかどうかは不透明だ。(幕井梅芳)
給与のデジタル払いは金融機関の口座ではなく、資金移動業者のキャッシュレス口座に給与を振り込む仕組み。「PayPay(ペイペイ)」や「楽天ペイ」といったスマホ決済サービスに、口座残高100万円を上限に直接入金される。
銀行口座への振り込みと比べて、現金を引き出す手間などを省ける。企業の福利厚生の一環としても活用でき、口座開設が難しいとされる外国人労働者らへの給与の支払い方法として選択肢が広がる。企業にとっては振込手数料の削減につながる可能性もある。
一方で給与の全額をデジタル給与で受け取りたいと考える労働者は多くないとみられる。銀行口座振り込みとデジタル給与払いの両方が認められると企業側の運用が二重になりシステム対応などの事務負担が増す。
給与のデジタル払いではアカウントの保護を10年としている。ただ銀行とは異なり口座という概念はなく、個人認証のためのキー情報の正当性をどう担保していくかという課題もある。安全面では、資金の保全や不正引き出しの補償、換金性など銀行の制度と同程度の仕組みになるように設計されている。しかし、監督官庁が金融庁と厚労省に分かれており、連携面での不透明さも残されている。
決済面でのリスクもある。資金移動業者は資金移動の仲立ちの役割を担っている。その資金移動の過程で倒産した場合、給与が従業員に振り込まれていないといったケースも想定される。
銀行など金融機関は預金保険制度が適用され、倒産すると国が全額補償する仕組みになっている。資金移動業者には同制度の適用はなく、補償面で何らかの措置が必要になる。従業員の利益が損なわれることがないよう、きめ細かな制度設計が求められそうだ。